カティナトの冒険者ギルドは街の北西、町の西側入り口近くに位置している。それはグランデムから来る冒険者に対する配慮も兼ねての配置なのだが、先程の一件で南東側に向かっていたルベル達にとって、ちょうど街の中央を通って反対側ということになる。
その為、ルベル達がギルドに到着した時には、既に夕暮れとなる時間だった。
「ここが冒険者ギルドだ。来んのは初めてだろ?」
「なんだか酒場、みたい」
リラがそう呟くのも、無理はなかった。入り口にある扉は入り口の大きさの半分程度しかなく、店内を隠す意図のない木製のウエスタンドアのため、店内の様子は入らなくてもよくわかる。
鍛冶屋としては少し手狭な部類に入る『LILAC』の数倍の広さはあるその店内の、カウンターへと入り口から真っ直ぐ続く道を除いて、所狭しと並べられたテーブルと椅子。
一つのテーブルにつき人、魔物を問わず誰かしらがいて、酒が入っているジョッキを手にしつつ和やかに酒を飲んだり、周りを巻き込んで騒いだり、実に賑やかな様子だった。
彼らの殆どが何らかの武器を傍らに置いているが、それがなければ普通の酒場と見間違うような光景だった。
「まぁ、その解釈も間違ってねぇよ。ここは酒場として一般開放もしてるからな。さて、さっさと用事終わらせてくっか」
キィ、と短い音を立ててドアが開く。ドアに近い方の席に座っていた何人かはこちらに目を向けたが、すぐにその視線を戻した。ルベルはわいわいと騒いでいる周囲に知り合いの姿を何人か見かける。
(なるべく顔見知りに会わねぇようにカティナトに来たっつーのに……意味なかったな、結局)
だが、彼らのことは一瞥するだけに留めて一直線にカウンターへと向かう。
「おい、マスター!!マスターはいるか!!」
カウンターの中に向かって迷惑にならない程度の大声でルベルが言うと、奥の方から、肩までの髪を一つ結びにした女性がゆったりとした動きで現れた。
「なにー?そんな大声張り上げなくても聞こえてるわようっさいなぁ……」
ふぁ…とあくびを漏らす彼女は20代にしか見えない容姿をしているが、彼女こそここカティナトの冒険者ギルドにおける受付嬢、通称マスター。
先程ルベルの言った通りに、カティナトのギルドはただの集会場や仕事の斡旋所としてだけでなく、酒場としての顔を持つ。彼女はそこのマスターも努めているため、それがそのままあだ名となり呼ばれている。
だるそうな声音は一見不真面目そうな印象を与えるが、その実彼女はこの若さにして一人で酒場のマスターとして経営を切り盛りしながら冒険者への仕事の斡旋をこなす程に優秀な手腕をほこる。その上、細い目つきと全体的にすっきりした顔立ち、余裕さえ窺える態度には彼女が人間であるにも関わらず大人の女性としての魅力を感じる未婚の冒険者も多数おり、カティナトの冒険者の間ではちょっとした有名人である。
「うわ、誰かと思えばルベル?あんた、そんな切羽詰まった顔してどうしたの?」
「単刀直入に言う。今、起きている通り魔事件の情報を教えろ」
眠たげにしていた彼女が、目蓋をしっかりと開けて表情を険しくする。
「あぁ、そういう訳。ちょっと待ってて、持ってくる」
そう言って奥に引っ込んだマスターだが、大した時間をかけずに何枚もの資料を手に戻ってきて、カウンターの上に乗せる。
「一番あんたが見たがってそうなのは……こいつね」
ガサリ、とその中から一枚だけ取りだしたマスターがルベルに差し出すと、ルベルは引ったくるようにして受け取って内容に目を通す。
『……被害者は、一名は矢が腹部に突き刺さった状態で発見。残り二名は、そこからやや離れたところで、それぞれ背や肩口から出血した状態で発見された。傷口を見る限り、その二名は斧を凶器として使用されたと思われる。また、発見されたのは早朝、通りがかりの男性によってだったため、この犯行が行われたのは……』
そこまで見て、ルベルの肩から力が抜けた。どこか張り詰めた空気が霧散し、安堵の溜息を大きく吐く。
「大方、街で流れてる噂を聞いて心配してたんでしょうけどね。見ればわかるでしょうけど、以前とは完全に別人よ。どう?情報、これでいい?」
「あぁ、充分だ……サンキューな、マスター……」
頭を下げ、ルベルは片手で右の眼を押さえる。その姿は、泣くのを必死にこらえているようにも見えた。
「それはそれでいいんだけど……ところでその子、誰?」
「はぁ?誰の話して……なんでここにいんだよ、リラちゃん」
マスターの疑問の意味が分からずにルベルが視線を辿ると、リラがぽつんと一人無言で立っていた。
彼女の性格からして、てっきり外で待っていると思っていたので、後ろにいたことに少なからず戸惑う。
「こういう店には、行ったことが、なかったから。店内
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