リラがデートの誘いをOKしてくれたのが昨日。デートスポットを決めたのが今朝。待ち合わせ場所の鍛冶屋から、徒歩で移動を開始したのがつい一時間程前。
そして、現在。
ルベルとリラの二人は目的地、カティナトに到着していた。
港町カティナト。
西方の山と東方の海に挟まれたこの街は、グランデム周辺の街の中で最も近くに位置する、隣町のような場所である。とは言っても、グランデムへ最短距離で行こうとすると西方の山の舗装が完璧ではない山道を通らなければならず、行商人などは状況に応じて山を避ける遠回りの道を倍以上の時間をかけて通ることも珍しいことではない。
辺りを見渡してみれば往来は人と魔物で賑わっていて、青空を見上げれば潮風の吹く中をカモメが鳴く声が聞こえる。
そんな街の中、ルベルは隣にいるリラの事を見る。
「何?」
「……いや、何でもねぇ」
こちらを見つめ返してくる単眼を見ているとなんだか恥ずかしくなって、目をそらす。つい、素っ気ない答え方になってしまった。
「……そう。それで、これからどこへ、行く?」
何気なく聞いてくるリラ。ここでようやく、ルベルはこれがデートである事を実感した。
「私は、構わない」
リラからその返事をもらった時は、思わず耳を疑った。聞き返して聞き間違いではないことを確認できた時は、まるで空の彼方からエンジェルが祝福してくれたかのような心地になった。それこそ、その隣で渋面を作っていたキリュウが全く気にならなかったぐらい。
後でニシカから聞いた事情によれば、どうやらリラは彼の言った冗談を真に受けてしまったらしい。最初は訂正しようかと思ったのだが、デートぐらいならいいか、と結局そのままにしたのだそうだ。
楽しんできてくださいね、と言って笑った彼のことを心の友に認定しよう、とルベルは内心に固く誓ったのだった。
……同時に、店長がそんな調子で店は大丈夫なのだろうか、と少し心配になった。
「ルベルクス?」
リラの声で、ルベルはふっと我に返る。目の前で、リラがこちらの顔を覗きこんでいる。昨日のことを考えていたらつい思いにふけっていてしまったようだ。
「っと………わりぃ。行き先ねぇ……」
正直なところ、具体的にどうするかルベルは何も考えてなかったので困った。
デートスポットに地元のグランデムではなくわざわざ隣町であるカティナトを選んだのも、知り合いの遭遇率を少しでも減らそうという、それだけの理由。
とは言ってもせっかく来たのだから、何もしない、というのはまずありえない。
「じゃあよ、とりあえずその辺を適当にぶらぶらして決めねぇか?」
「それで、構わない」
少し考えた末、そんな結論へと落ち着く。
それは多少投げやりな感じのする提案だったが、リラはあっさりと受け入れる。
そんな感じに、二人のデートがスタートした。
ルベルに比べると歩くのが遅いリラのペースに合わせて横に並んで、露店の立ち並ぶ通りを歩く。通りは活気で溢れ、しきりに客を呼ぶ声が大きく響き渡っている。
「…………」
リラはそれらを無言、無表情に眺めていた。それはいつもの表情ではあるのだが、今は少なくとも名目上はデート中。なので、ルベルにはそれがどうしても気になってしまう。
何かいい店はないものかと捜していると、ふと一つの店が目に入った。
「なぁ、あの店見てかねぇか?」
「…いいけど」
そこは、アクセサリーを専門に取り扱う場所のようだった。木製の机と掛けられた布のみで構成されたそこに、女物のアクセサリーが所狭しと並べられている。
「へぇ…結構綺麗なもんだな……」
品物の一つを手に取って、リラに見せつけるようにかざす。
ここなら女性は喜んでくれるはず、とルベルはこれまでの人生での経験談で考えた。
そして、それはあながち間違いではなかったらしく、リラの視線は並べられたアクセサリー類に注がれていた。
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」
せっかくだから何かリラに買っていこうかと思いながら品物を眺めていると、中にいる若い女性店員の方から声をかけてきた。
「あぁ………いや、そういう訳じゃねぇよ。単に、何売ってんのか気になってな」
「お連れの方へのプレゼントですか?それでしたら………こういうのはいかがでしょうか」
そう言って、彼女が差し出してきたのは赤いハート型の宝石がついたネックレス。
「気持ちは嬉しいけど、私たちは、恋人じゃない」
困ったようにリラが言うと、店員はくすくすと口元に手をあてて笑う。
「あら、違うのですか?お二人の雰囲気から、そうではないかな、と思ったのですが」
この二人のどこを見たらそんな風に見えるのかは、謎である。
リラが心外だ、とでも言わんばかりに店員の目をじっと見つめると、今度は
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