鍛冶屋『LILAC』と軟派な剣士 前編

グランデムの街の大通りはいつも活発に賑わっていて、特に現時刻、ようやく午後にさしかかったという時間帯の人の数はそれなりに多い。

その通りの中で、どこか活発そうな雰囲気を持つ青年が一人、主に買い物を目的とする周りの人間が歩く向きとは反対方向へと歩を進めていた。
肩にかかる程度に長い特徴的な金髪と、腰に着けた一振りの剣は、周囲よりも彼の存在を際立たせている。
彼の足はやがて大通りを外れて、目的地へと辿り着く。
そこにあったのは店、と言うには殺風景だが民家、とも呼べないような、そんな建物だった。
窓から見える店内の風景を除けば唯一ここが商店であることを象徴していると言ってもいいような、風に揺れる木製の看板を青年は見上げる。

「来んの随分とひっさしぶりだな、ここ……」

感慨深そうに一言言って、青年はその店、鍛冶屋『LILAC』の扉を開けた。

「…いらっしゃい」
「いらっしゃいませ!!鍛冶屋『LILAC』へようこそ!!」

店内に入った青年に、全く対照的な態度の二人の店員の挨拶がかけられる。

無表情にこちらを見つめてくるのは、琥珀色の単眼が特徴のサイクロプス、リラ。
例え店員であっても、もともと感情の変化に乏しい種族の彼女がこのような態度をとることは特に珍しいことでもないのを知っているので、青年はそのことを気にしてはいなかった。

丁寧に応対をしてきたのは、整えられたショートカットの青髪で、箒を持ったやや童顔の青年。
ん?と軽く青年の頭に疑問符が浮かぶ。
一応自分はここの常連客であるのだが、彼の顔を見たことはない。考えられる可能性としては、新たに雇った店員というのが一番妥当だろうか。

「うーっす。ひっさしぶりだな、リラちゃん」
「別に私は、あなたに会いたいとは、思ってなかったけど。ルベルクス」


笑顔での会釈を冷たく返されて、青年______ルベルクス=リークはそれでもあまり動じなかった。
入って早々に女性店員に冷たい態度をされれば普通は多少落ち込むだろうが、彼にとっては彼女が冷たいのはいつも通りのこと。
とは言っても全くダメージがない訳でもなく、疲れ気味にため息を一つ吐く。

「……ところで、こいつは新人かよ?」

半ば強引に話題をずらすと、リラではなく指名された青年の方が返事をする。

「あ、はい。初めまして、ニシカと申します。まだ入って間もない新人ですが、リラさんにも負けないよう一生懸命働こうと思っておりますので、どうかよろしくお願いします」

そのお辞儀のあまりの丁寧さには、少々面食らった。
ここにはいないもう一人の男性店員が思い出すだけでもイラッとくるような馬鹿なので、てっきりその類かと思ったのだが。
昔の彼は清潔感など感じさせないボサボサの髪の引きこもりだったのだが、今の彼はそのような雰囲気は一切見せない。

「俺はルベルクス=リークだ。長ぇからルベルでいい。こっちこそよろしくな」
「それで、ルベルさん。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「……っと。あぁ、そうだな」

その言葉に、ルベルは危うく見失いそうになっていた本来の目的を思い出して、リラの方を向く。

「今日はリラちゃんに頼みてぇことがあるんだ」
「…………一応、内容を聞かせて」

真剣な表情で言うルベルに対して、淡々と返すリラ。
一拍置いて、ルベルは力強く宣言した。



















「リラちゃん、俺と…………デートしてくれ!!」
「嫌」
「即決すぎんだろ!?」

渾身の叫びをばっさりと切り捨てられて、思わず突っ込んでしまうルベル。
隣で笑顔のまま待機していたニシカでさえ、ルベルとリラの関係を今のやりとりで大体察して、軽く苦笑いを浮かべるのであった。

「今のやりとり、これで大体、三十回目ぐらい。いい加減に、来る度にデートに誘う、その癖をやめてほしい」
「いいじゃねぇか別に。リラちゃんって美人だしよ、一度くらい一緒に出かけてみてぇんだよ」

カウンターに肘をついて、ルベルがぼやく。
これでも整った顔立ちを持つルベルが言うとそれだけで惚れてしまいそうな言葉だったが、リラは態度を崩さない。

「いくら世辞を言っても、値下げはしない」
「いや金に困って言ってる訳じゃねぇよ!!これでも冒険者稼業でそれなりに稼いでるっつの!!」

ルベルはカウンターを叩いて、必死に主張する。

「冒険者なら、まともな依頼も、あると思うけど」

そう言いながら、リラはルベルの腰に着いている剣へと視線を向ける。

「例えば、その剣の修理、依頼しに来たとか」
「あぁ、こいつか?そうだな、じゃぁお言葉に甘えて頼ませてもらうわ」

ほらよ、と言って腰に着けた剣をカウンターへと置く。
リラが鞘から抜き取って確認すると、その剣の刀身は痛んでおり、刃はところどころが欠け
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