戦士

アイオンのサーガ


登場人物

 アイオン
 主神教団の元戦士であり、今は魔物とともに旅をしている青年。
 貞操観念が緩くなったのではないかと悩んでいる。

 ガーラ
 アイオンの旅のきっかけとなったハイオークの魔物娘。
 旅の仲間が増えるたびにやきもきしている。

 ノチェ
 故あってアイオンとガーラに助けられた妖精。
 一見可憐だが、愛する人のためならば命を捧げようとする激情を秘める。

 カルタ
 アイオンと戦い、仲間となったケット・シーの魔物娘。
 仲間を守るために何かをできるようになりたいと望んでいる。

 ヘルハウンドたち
 ニヴ、ザンナ、クロ、プレザの四姉妹(ニヴが長女)。
 アイオンとは戦った過去を持つも、死地を救いに現れる。
 今は旅の仲間として共に行動している。

 アルデン神父
 アイオンの育ての親である教団の神父。
 今もなお、アイオンのことを案じている。

 ティリア
 アイオンとともに育ち、彼に対する愛と執着を自覚した女。
 堕落したアイオンを追うものの、その足取りを掴めずにいる。










 序 凶報

 ……とある町の教会に一報が届く。
 それは教団が発行する速報であった。月に数度、複数の事案をまとめて通達するためのものだが、それには物事の通達だけでなく訃報も同時に記されている。そして、教会の主はとある事件と、その死傷者の名を見て悲しみに満ちたため息を吐く。
 そこにはこう書かれていた。

 『ヨアンネス・バルト 魔物との交戦中にて死亡』

 「……ヨアンネス、どうして……」
 神父は、たまらずその事件の報へと目を落とす。
 『さる冬の月、初旬
  ノーシア国ルーク伯爵領にて、魔物の集落があるとの報を受けた伯爵はミハイル子爵に討伐を命じられた。
  子爵は即座に討伐隊を編成し、件の集落へと討伐に出向く。
  そこで魔物と堕落者の一団と遭遇、交戦を行う。
  初戦は子爵の類い稀なる戦略と勇猛なる討伐隊の活躍により辛くも犠牲者を出すことなく勝利を得るも、新たな魔物の一団が集落に向かっているとの報せを受けた子爵はいったん撤退し、その後待ち伏せからの奇襲を行い、魔物の一団の殲滅を計画する。しかし、狡猾な魔物の一団によって子爵の計略は見破られたため、やむを得ず交戦を開始。
  特徴からハイオークとみられる魔物は堕落者である戦士とともに兵士数名を残酷にも殺害せしめる。
  その後、勇気ある兵士たちの猛攻によりハイオークと堕落者へと痛打を与えるものの新たに表れた魔物が悍ましい魔術を用いて死者を蘇らせ、討伐隊へと襲い掛からせた。
  この脅威を前に討伐隊は果敢に戦うも、兵士数名と教団の戦士一名の死者を出し、子爵はこれ以上の交戦は危険と断腸の思いで決断し撤退を決定する。
  この報せを受け教団とノーシア国は魔物に対する警戒を強めるとともに、件のハイオーク含む魔物の一団と堕落者の戦士に対し討伐を行うべく情報の公募を行い、また討伐者には賞金を出すと発表した。
  討伐において有益な情報を提供したものには教団及び伯爵より褒賞を出すとの……』
 記事を一通り読み終えた神父は、再度深いため息をつく。ハイオーク、そして戦士……それはかつて、我が子同然に愛し、そして父のように慕ってくれた青年を思い出させずにはいられなかった。その青年は幼き日の出来事から深く魔物を憎んでいた、はずだった。
 だが、その心は堕落してしまった、否……していた。
 その戦士と同じく、幼き日より娘のように愛し育てた養女であるシスターの口から告げられた言葉は、ひどく残酷に神父の心をえぐったのである。そして、その戦士を愛し慕っていた娘もまた戦士を追って神父のもとを去ってしまった。その時の娘の眼、それを神父は忘れることができなかった。怒りと、嫉妬、そして何よりも深い恋慕と執着……まるで魔物の如く苛烈に燃えるその瞳を神父は忘れることができなかった。
 堕落してしまった息子、そしてその息子を愛するあまり嫉妬に狂った娘……嗚呼、私の愛は間違っていたのだろうか……道を踏み外してしまった、最愛の子らを前に神父はどうすることもできなかった。それ以来、神父はすっかり打ちのめされ、ただ静かに教会の中に籠る日々を過ごしていたのである。
 そこに届いた、友の訃報。
 神父はただ静かに首を垂れる。
 「……神よ、なぜ……こうも続けて試練を与え給うのか」
 主神の印を手に握り、祈りを捧げる。神父は恐ろしかった。頭の片隅に浮かぶとある考え。それはこの報せにある戦士は、己が知っている者ではないかと。兵士の集団を相手取り、魔物連れとはいえそれを撃退できるほどの戦士はそうはいない。だが、神父は知っている。かつて、息子であった戦士はそれだけのことを為せるだけの力があった。おそらく、
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