登場人物
アイオン
主神教団の元戦士だった青年。
妖精の国を目指し、仲間たちと旅を続けている。
ガーラ
アイオンと共に旅を続けているハイオークの魔物娘。
世話焼きで快活、そして性欲が強い。
ノチェ
アイオンとガーラによって盗賊から救われた妖精。
好奇心が強く、時折返答に困るような質問をする。
カルタ
ノチェを奪おうとしたケット・シーの魔物娘。
色々あり、今はアイオンと旅をしている。
ティリア
かつてアイオンが所属していた教会のシスターである女性。
アイオンの幼馴染でもあり、彼に対する執着を自覚する。
アイオンのサーガ 〜白い果て〜
序 仄暗い記憶
……吹きすさぶ吹雪の中で、影が舞う
人と魔物が、殺し合っている
振り上げられた剣が、魔物の胴へめり込み紅い花が咲く
魔物の爪が、牙が、人に喰いこみ叫びとともに紅い雨がふる
アタシもいかなきゃ
武器を取り、雄叫びをあげ、影の中へと突き進む
手にした斧を振るい、目の前の人をたたき割る
ぱっと、紅い雪が目の前に舞う
アタシは嗤う
仲間も嗤う、人は啼く
もっと、もっと
人間が叫び、剣を、槍を、斧を振り上げ、魔物に挑む
魔物は嗤い、砕き、折り、弾き飛ばして、人間を討つ
顔にかかった血が舌の上に広がる
なんて、甘いのだろう
人間は、弱い
魔物は、強い
アタシは嗤う、紅い丘の上で
心が満ちる、これが世の理だと
仲間の悲鳴があがる
一匹の人間が、魔物の首を刎ねた
その人間は疾く、風のように舞い、魔物を討つ
紅い花が、戦場に咲き乱れる
紅い風が、アタシの前に吹く
コロシテヤル
互いに、そう叫んだ
人間の剣が、魔物の大斧を打つ
今までの人間と違う、重い一撃
怒りと憎しみに満ちた、復讐の刃
紅い丘の上で、二つの影が舞う
人間も、魔物も、叫び、剣を、斧を、打ち付け、切り裂き、血を流す
嗚呼、楽しい
魔物は嗤う
何故嗤う
人間が問う
うれしくて、かなしいからさ
何故
お前には、もう会えない
魔物の斧が、人間の肩を砕く
打ち砕かれ、地に伏した人間の肩から血が流れる
だからかなしいのさ
魔物は嗤う
化け物がっ
うずくまり、人は啼く
倒れ伏した人間を掴み、その顔を砕こうと手をかける
若い男の顔が、目が、憎悪が魔物に向けられる
頭を押さえ、動きを封じ力を籠める
みしりと、心地よい音と悲鳴が鳴る
苦痛に満ちた男の瞳に、醜い魔物の顔がうつる
じゃあ、さようなら
ぺろりと、その顔を、額をなめる
戦士の顔が歪み、ゆっくりとつぶれていった
……ぱきり。
焚き木の薪が割れる音でガーラは目を覚ます。
荒い息を吐き、周囲を見渡す。薄暗い、ほら穴の中で、ガーラはアイオンを抱きしめ、その身を毛皮に包んでいた。そのアイオンの腕の中に、ケット・シーのカルタが鼻息を鳴らしながら眠りに落ちている。ガーラからは見えなかったが、妖精のノチェもアイオンの胸の中か、カルタの毛皮の中で眠っているに違いない。
冬の足音がすぐそばにまで迫り、寒さが堪えるようになったために、眠る時は一番大きいガーラがアイオンを、アイオンがカルタとノチェを抱きしめるようにして眠るようにしていた。
ガーラは外を見る。暗く、ただ冷たく吹き抜ける風の音だけが響いてくる。まだ日の出には遠い。
震える手を、自らの顔に当てる。じっとりとした、冷たい汗が指先を濡らした。そのまま目の前にいる、寝息を立てるアイオンに手を伸ばし、その顔に触れる。
恐る恐る、砕いてしまわないように
ガーラの手のひらが、アイオンの頬を包む。しっかりとした、温かい肌と、硬い骨の感触。何ものにも代えがたい、大切な存在。
思い出す、あの感触を
肉へ爪を喰いこませ、骨を押し潰す
大切なものが、こわれる
あたしが こわれ る
ガーラの目から、涙が零れ落ちる。
ひどく恐ろしい夢。
仄暗い血の、魔物の記憶。綿々と刻まれた、獣の血。それが溢れ出たかのような夢。訪れたかもしれない現在。
醜い獣の顔を思い出す。愛する人が見た、最後の獣。
あれが自分だと、認めたくない。
だが、ガーラの中の、血が叫ぶ。あれはお前だ、もう一つの、在りし日の理なのだ。かつて、この世界は二分されていた。人の世と、魔物の世、この二つの世界は交わるたびに血と死によって分かたれてきた。それがこの世の理であった。
だが、理は変わった。今や魔物は、人を喰らい、戯れに命を奪う悪意に満ちた存在ではない。ガーラのように、不器用ながらも人を愛し、共に生きたいと願
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