登場人物
ティエン
仙石楼にて修行を積まんとしている拳士。
宿敵たる三獣拳士の帰還を待ち望んでいる。
タオフー(桃虎)
雷爪のライフーの妹……なのだということを忘れかけている人虎の魔物娘。
鍛え抜かれた完璧な肉体がティエンの好み。
フオイン(火銀)
炎嵐のフオジンの妹……である火鼠の魔物娘。
耀かんばかりの健康的な肉体がティエンの好み。
ヘイラン(黒蘭)
岩流のバイヘイの妹……で兄が本当にいたか曖昧なレンシュンマオの魔物娘。
柔雲の如き白く滑らかな肉体がティエンの好み。
ナオ(脳)
ヘイラン作“獣の脳の秘伝の薬味煮込み”が意思?を持ち動き出した料理。
ティエンのことがとっても大好き。
〇天崙山名産『天崙甘瓜』
……霧の大陸、その名の通り霧深く悠久の歴史を持つ広大な大陸である……
それ故に、いくつもの国が栄え、そして多くの都が華やかにその歴史を彩っていた。
そんな霧の大陸の都の一つにて、賑やかな歓楽街の一角、その通りを一組の男女……人間の男と魔物娘である刑部狸が仲睦まじい様子……刑部狸ががっちりと男の腕に組みつき……歩いていた。
……はぁ〜 まったく……旦那も人が悪いねぇ あっしがちょいと目を放せばあっという間に逃げちまうんだもの……
で、も、ね あっしは言いましたよねぇ……こう見えて足や腕っぷしには自信があるんでさぁ いひひ でもでもぉ、旦那もやりますねぇ あっしからここまで逃げるったあ……なかなかできることじゃあありやせんよ
なになにぃ? 話は済んだ? 金は払った? いやいや〜何をおっしゃいますかねぇ まだ旦那は何一つ買っちゃいないじゃあ、ないですかぁ〜 話だけでさよならたあ、他の狸に笑われちまいますよ
しかしまあ、いささか喉が渇きやしたねえ……ここは一本、旦那の御絞りを……ぶへへ……なに? 水? いやですねえ、ここまで来て御預けなんて……い、け、ず……というやつでさあ……さぁさ、そこの隅で一本 えっ? なに? 喉?
喉がどうしたんでさぁ ……あゝ、これはあっしとしたことが……旦那も、でしたねぇ 走り回って渇いてらっしゃるんで これは失敬……しっかしまあ、どうすれば……この辺にぃ……井戸は…… おっ
なんですかい、旦那ぁ あっしが悪い顔をしている? またまたぁ……ちょいとばかり良いものを見つけただけでさあ
おっちゃん、その瓜を二つばかりおくれよ 代金は獣仙窟までで頼むよ
……ありがとよ いやいや、こちらこそいつも助かってるよ ん〜? なんだい……ああ、この旦那はあっしのさ……ふひっ そう、そういうことだから、またね
なんだい旦那、恥ずかしがっちゃってぇ……そんな顔されたらあっし、そそられちゃうねぇ……
ん〜? 瓜、この瓜? ひひ、喉が乾いたろう、ちょうどいいと思ってね この瓜はこの辺じゃあなかなか見つからないものでねぇ、でも懐かしい味なのさ こいつはあっしの奢りだよ、ちょちょいと切ってやるから一緒に食べようじゃないかあ
なんていう瓜だって?
あ〜……こいつは天崙甘瓜っていうのさぁ そう、仙女様がいる天崙山に生える瓜なんだよ どんなに喉が乾いても、こいつを一つ齧ればあら不思議、すぅっと渇きが癒えるのさ 懐かしいねぇ……天崙山には仙女様がたくさんいてねぇ……その中の御一方がこの瓜を良く食べていたっけね
ふふ……そうさね、気分がいいから一つこの瓜にまつわる話をしようじゃあないか なあに、さっき話した、この瓜が大好きな仙女様の話さ
……雲浮かぶ、遥かな大地より伸びたる天崙山の中腹でのんびりとした時間が流れていた。穏やかな午後の陽気の中、霧は薄く、視界は大きく開け遥か眼下ではもくもくと雲海の如く揺蕩う霧が小高い山や木々、そして麓の町を覆っていた。
そんな長閑な昼下がりは、仙石楼でも変わることのない穏やかさであった。かつては襤褸のあばら家の如き朽ち楼であったが、この地に住み着いた修行者……ティエンの手によってすっかり見違えるほど、かつての栄華が甦るかのようにその荘厳な楼が再び立ち並びつつあった。尤も、最盛期の華やかな彩色の墨で塗られていた当時に比べたらやや質実剛健に見えたであろうが、それでも十分なくらいに建て直されていた。
そんな仙石楼の中庭で、一仕事を終えたばかりのティエンが切り揃えられた木材の上に腰掛け、ゆっくりと切れ端を燃やす焚き火を眺めていた。
薄霧の下、ほんのりとした陽気を運ぶ太陽の光を浴び、仕事終わりの充実感を伴う穏やかさの中でティエンは次の仕事の段取りについて考えていた。普段であれば、少しでもティエンがのんびりと休もうものならば即座に誰かしらが飛んで来たものであったが、今は珍しく誰もティエンの傍にはいなか
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