登場人物
ティエン
仙石楼にて修行を積まんとしている拳士。
宿敵たる三獣拳士の帰還を待ち望んでいる。
タオフー(桃虎)
雷爪のライフーの妹……なのだということを忘れかけている人虎の魔物娘。
鍛え抜かれた完璧な肉体がティエンの好み。
フオイン(火銀)
炎嵐のフオジンの妹……である火鼠の魔物娘。
耀かんばかりの健康的な肉体がティエンの好み。
ヘイラン(黒蘭)
岩流のバイヘイの妹……で兄が本当にいたか曖昧なレンシュンマオの魔物娘。
柔雲の如き白く滑らかな肉体がティエンの好み。
ナオ(脳)
ヘイラン作“獣の脳の秘伝の薬味煮込み”が意思?を持ち動き出した料理。
ティエンのことがとっても大好き。
注……一石=100s、100gほど
……ファンジェン一門との激闘、それが起こる数日前……
仙石楼でタオフーたちが堕淫、惰性を貪っていた頃。
ティエンは一人山道を下っていた。
少しばかり靄のかかった、穏やかな昼下がり。てくてくとティエンは足取り軽く、日差しの差し込む木漏れ日の中を歩き続けていた。
少しばかりの荷物を背に抱え、山を下る様子は一見せずとも道士か修験者のようであり、ややもすれば修行に心折れ下ってきたようにも見えた。
数多くの修練者が山の頂を目指し、そして道破れては山を下るものであり、毎日……とはいかずとも、一周、一月おきに誰かが登り、そして降りてくる地でもあった。
もちろん、上ったきり降りてこない者もいた。それの行方を捜すものは居らず、また探しようもなかったであろう。
ただ広大なる山脈がそこに横たわり、そしてまたその頂たる天崙山もまた穏やかに鎮座し続けている。その山の一角に、倒れる者がいたとて見つけようがあるはずがなかったのである。
さて、そんな天崙山に上った一人であるティエンだったが、今こうして山を下ってきたのはその道破れての事ではない。山の中腹、その中心に座すは仙石楼……そこに住まう獣仙達……タオフーら、三獣拳士の妹たちのためであった。
……旨い食事を食べさせてあげたい……
そんな凡夫ともいえるような、慎ましやかな望みのためティエンは今ここにいた。
うっすらと、眼下の霧が晴れて山の麓が薄切りの中から顔を出す。
靄がかかりつつも、ところどころ光の切れ目が差し込み始め、穏やかな陽光がすそ野に広がる街を照らす。
天崙山と街、その間には鬱蒼と茂る林が広がり、街と山……人と自然の領域を隔てるように小川と呼ぶには大きい川が流れ、いくつかの橋が林に続くようにかけられている。橋を渡った先は広々とした平原が、連なる山脈の中にぽっかりと空いた盆のように広がっており、そこに天崙山の麓街があった。少しばかり色の禿げた紅色の楼があちこち立ち並び、歴史ある家屋がぼろぼろの石壁に囲まれた、窮屈な平地の中に押し込められている。中心には大きな広場があり、そこでは旅人や、ティエンのような修行者相手に商売をする店が幾つも軒を連ねていた。少しばかり外れてはいるが、帝のいる都からそう遠くない場所ということもあり、街は交易や旅の中継地点としてもそれなりの賑わいを見せている場所でもあった。そんな街の周りには畑が広がり、ぽつぽつと小さな影のように見える人々が今日も日々の糧を得ようと畑仕事に精を出しているのが見える。
(……もう間もなく収穫のようだ)
黄金色に実る穂の実が豊かに揺れる田園を眺め、ティエンは失いつつあった時の流れを思い出す。当初、ティエンがこの山に登った時は冬が明け、春先にかかるかどうかといった時分であった。山道には雪が残り、上に上がれば上がるほど凍て刺す空気に身が引き締まる思いであったことを懐かしむように、ティエンは目を細めて懐古する。
山に潜むと言われた三匹の魔獣、それらに出会ったのは山を登ってすぐの事であった。山の物の怪を打ち倒し払いながら、山を進むティエンの前に立ちはだかったのが……ライフーであった。霧が晴れた夕刻、夕焼けに照らされながらもなおはっきりと輝く白金色を纏い、鋭い氷柱の如き黄金を湛えたあの眼、それが大岩の上で立ち……己を見下ろしていた……ティエンは目を閉じ、息を深く吸う。
―宿敵―
そう思うに足る、出会いであった。
今でも思い返すたびに、心躍り体が火照る。互いの手の内、力の先もわからぬ尤も緊迫した戦い……あれから長きを経て、数度に渡る戦いを経てもなお決着はついていない。
(ライフー殿……)
目を開き、晴れ渡った空を見る。薄靄がちらちらと光り、大きな綿雲が流れていく、穏やかな青空。
ティエンは今一度、静かに深く息を吸うと、気を持ち直すように手荷物を持ち直し山のすそ野へと向かうのであった。
……ティエンが街に着いたのは、それから
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