登場人物
ティエン
武の道を究めんと日々研鑽を……積もうとしている拳士。
しかしタオフーたちに毎日色々と絡まれ修行は進んでいない。
タオフー(桃虎)
雷爪のライフー……の妹、ということにしている人虎の魔物娘。
ティエンに求められるのが好き。
フオイン(火銀)
炎嵐のフオジンの妹……と最近本気で思い込み始めている火鼠の魔物娘。
ティエンに甘えるのが好き。
ヘイラン(黒蘭)
岩流のバイヘイの妹……を演じているレンシュンマオの魔物娘。
ティエンに尽くしてもらうのが好き。
ナオ(脳)
ヘイラン作“獣の脳の秘伝の薬味煮込み”が意思?を持ち動き出した料理。
ティエンのことが大好き。
第二記 仙石楼暗雲編
……幽玄なる大山脈が連なる霧の大陸、その一角に坐する大霊峰“天崙山”……
その中腹に仙石楼はあった。
かつて、この場所で数多の仙人とその弟子たちが修行していたという。だが、一人の仙人の堕落を端に発する大騒動ののち、仙人とその弟子たちは散り散りになり、仙石楼もまた捨て置かれることとなった。
そして廃墟となった仙石楼であったが、最近は様子が違っていた。少し前までは天崙山の中腹の主ともいえる魔獣ライフーの住処として誰も近寄らぬ地であったが、今は違う。何やらライフーが去り、その代わりに見目麗しい獣仙の天女が三人……人間の従僕を一人従えて暮らしているとも、いやいや男が仙人で獣たちを変化させて従え、奉仕させているのだとも、そんな噂が出てきていた。
噂とは不思議なもので、ほんのひとつまみでも真実が混じっていればさも全てがその通りのように聞こえるものであった。ただ、ライフーにとっては面白くのない話ではあったであろう。
まず、ライフーは去ってはいなかった。いなかったが……正体を偽っていた。後の世において、俗にいう“代替わり後”の世界、その節目にちょうど居合わせた魔物として己の体と精神に起きた大いなる変化を前に困惑していたライフーは、これまたたまたま“巡り合わせ悪く”宿敵たるティエンとの出会い頭の際に変化後の己を偽り“タオフー”として過ごす日々を選んでしまった。
それが結果としてバイヘイ、フオジンまでも巻き込み“三獣拳士の妹たち”としてティエンと共に仙石楼で過ごすという奇妙な日々へと繋がったのである。
そしていろいろなんやかんやあり……どうしてかティエンはタオフーら三獣拳士の爛れた日々を……艶やかな桃の花が咲き乱れるような……送ることになったのである。毎夜毎夜、かわるがわる見目麗しい仙女に求められるというのは霧の大陸にすむ男であれば必ず一度は思い描いたであろう桃源郷であり……ティエンは齢三十を目前にして、そんな男たちの夢を叶えていた。叶えていたが……まあ現実は往々にして空想夢想よりも厳しいものである。
実際のところ、楽しんでいるのは獣仙たるタオフーたちの方で、ティエンは貪られ喰われる獲物であり、淫魔に精を絞り取られる情夫の如く心身ともにぐったりしていた。
もちろん、天に上るような快楽と引き換えに、ではあるが。
そもそも天崙山にその名を轟かせる魔獣が変じたモノたちである。その体力は人間であるティエンとは比べるまでもなく、おまけに獣性故か性欲もまた尽きることなく、いかにして普段欲望を抑え込んでいるのかわからないほど強かった。それを人の身、それも一人で受けきるのは当然、無理があった。
だが、これも後の世になってわかることだが、一度“情を交わしてしまった”が最後、彼女たちが生涯のツガイとして認めるのはただ一人のみ。つまるところ、タオフーたちはずっと“タオフーのまま”となるし、それに伴いティエンの長い長い淫欲に満ちた苦難はまだまだ始まったばかりともいえたが、それは与り知らぬところであっただろう。
なんにせよ、それがいま仙石楼に住む者たちのざっくりとした真相であった。
はてさて、そんな仙石楼だったが……ちょっとした危機が訪れていた。
それは、ティエンにとってはいずれ来るものと分かり切っていたことであった。いや、それの訪れはまだ少し先だっただろう。しかし、もしも“今の生活を続ける”ならば……避けては通れない道であった。
それは……
「……調味料の備蓄が……もう、あまりない」
そう、厨房の調味料の備蓄であった。そうというのもここは遥かな山の上、料理を彩る香草だなんだの薬味はまだ何とか手に入ったが、基礎的な味付けを行う塩や酢、砂糖に醤油といった調味料だけはどうしても調達ができなかった。
もともと、多数の仙人とその弟子たちが過ごした場所である。当然調味料の備蓄も大量にあったが、如何せん長らく放置されていた場所である。調味料を保存していた大壺の容器はいくつか割れてい
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