約束の場所 ※エロなし


登場人物

 アイオン
 魔物の群れとともに妖精の国へとたどり着いた盲目の戦士。
 光は失われども、導きを信じ続けた。

 ガーラ
 アイオンを果て無き旅へと導いたハイオークの魔物娘。
 その体には旅の記憶と共に数多の傷が刻まれている。

 ティリア
 強大な力と欲望をその身に燻ぶらせる竜の魔物娘。
 アイオンにその身を捧げたいと想うも、己が強欲に恐怖を感じている。

 ノチェ
 戦士と魔物たちを導く小さな妖精。
 我が身を犠牲にしてでも、アイオンを妖精の国へと導こうとする。

 カルタ
 アイオンにその命を救われたケット・シーの魔物娘。
 蜘蛛のゴーレムの背に乗り、アイオンたちと共に旅をする。

 ヘルハウンドたち
 ニヴ、ザンナ、クロ、プレザの四姉妹。
 ニヴ以外ゴブリンの世話をしていることが多い。

 ゴブリンたち
 盲目のホブゴブリンのパロマに率いられた小鬼の群れ。
 少しずつ、かつての陽気さを取り戻しつつある。



 第一 約束の場所

 ……その身を包む柔らかな、そして暖かい風
 冬の台地にはあり得ぬ、生い茂る草花を踏みしめる感触
 麗らかな陽光のようでいて、静かな月光のような優しい空気

 誰もが、静かに息をのむ

 目があるものは見ただろう

 燐光に揺らぐ、草花の絨毯を……
 夜空に星々が連なり、たいまつのごとく世界を照らすのを……
 天高く伸びた木々に光る苔が生い茂り、豊かな実りを鳴らすのを……
 流れる川は澄み渡り、小魚の群れが輝く様子を……
 そして何より、小さきもの……妖精たちが舞う姿を……

 見えぬものは感じたであろう

 巨大な母の温もりを
 己が立つ場所、足元から感じる偉大な息吹を
 そして知るだろう

 この地、この国、この世界そのものこそが……






 「……! ノチェ! ノチェは!」
 穏やかな風に包まれ、戦士が叫ぶ。遠巻きに、周りの妖精が舞う。
 ガーラも、カルタも、ティリアも、ニヴも……だれも声を出さない。否、出せなかった。だが、アイオンは前に出る。前に出て、眼前で……光射さぬ目の中で確かに燃える、小さな燃え殻に駆け寄り、そっと手に取る。
 それは熱く、燻ぶるようにアイオンの手を焼く。かすかに動く、翠の炎の揺らぎがその小さな姫君の命を示す。だが、すでに……戦士の手の中で燃える、小さなノチェは……今まさに燃え尽きようとしていた。今、アイオンが手にしているものは崩れ落ちる寸前の灰に等しかった。
 「ノチェ! ノチェ!」
 どうして、名を呼び、叫ぶ。制御の利かぬ、皮膚を切り裂き、骨を焼く魔力の激痛さえも感じぬとばかりにアイオンはその小さな妖精を優しく両手で包み、胸に抱く。

 燃え殻が、小さく微笑む

 そのままくしゃりと、灰が零れるように……小さな妖精は命を終えようとしていた。何もできない、その絶望に、戦士が叫ぼうとしたその時であった。

 誰かが、戦士の名を呼ぶ。

 故のわからぬ戦士が、顔を上げる

 ただ眼前に広がるのは、柔らかな光


 決して見えぬはずの、光を前に戦士はひるむ。だが、決して姫君を放そうとはしない。
 そんな戦士の両手を光が包む。それはとてもやさしい光。



 おかえりなさい



 その手に痛みはなく、確かな温もりが手の中に横たわる。

 「アイオン!」
 ガーラが、魔物たちが慌てた様子で戦士のそばによる。

「っ……! ノチェが……」

 くるりと、丸く手の中に……姫君が収まっていた。その姿は美しく、黒曜の宝石のよう。そして、その背には確かに……妖精の証たる羽が一対……生えていた。
 「ノチェ……!」
 ぱちりと、その小さな瞳が戦士を見る。
 「……アイオン……」
 妖精は愛する人を一目、目に焼き付けるように見つめると、そっと後ろを向く。人の戦士と、魔物の群れ、その目の前に……



 ただいま……女王様



 その姿は、美しかった。
 ある種、根源的な美しさといえた。だがそれは決して人の美ではない。

 あえて言えば、美しい花々が寄り集まり、人の姿……女性の形を模したようであった。蔓がその肢体を成し、揺蕩う光のような清水が顔のように浮かび、それに草花が長い髪のように連なっていた。一見して異様な姿……だが、不思議と見るものに恐怖は与えなかった。むしろ、目も、鼻も、口すらもない水面のように揺らぐ顔になぜか懐かしい、とても親しみの感じる誰かの面影が浮かび言いようのない安堵をもたらしていた。

 その女王の周りに、妖精たちが蝶のように舞う。

 《……もう、会えぬと思っていました……》

 木霊のように、優しく耳の中に反響するように伝わる“声”。
 ノチェはふるりと、その羽を震わせ……ぱっと花開かせるとふわりとその身を浮かせ……驚きのあまり固まる戦士の
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