幕間其の二 〜天崙山名産紹介『銀竹油』〜


登場人物

ティエン
 武の道を究めんと志す人間の男。
 齢三十を前に三獣拳士の(自称)妹たちで童貞を散らす。

 タオフー
 人虎のライフーが変じた魔物娘。
 齢三百にして宿敵のティエンで処女を散らす。

 フオイン
 火鼠のフオジンが変じた魔物娘。
 齢百にして好敵のティエンで純潔を散らす。

 ヘイラン
 レンシュンマオのバイヘイが変じた魔物娘。
 齢五百にして強敵のティエンで貞操を散らす。

 ナオ
 ヘイランによって生み出された名状しがたい粘性の料理。
 ティエンに良く懐いており、ティエンの手伝いが大好きでヘイランが苦手。












〇天崙山名産『銀竹油』



 ……喧騒賑わう霧の大陸の都、その一角にある遊町で一体の刑部狸の露天商が声を張り上げ商いをしていた……



 さあさ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!
 この度お見せするは、霧の大陸一の霊峰“天崙山”から遠路はるばるやってきたぁっ!
 ひとたび舐めれば王道楽土、肌に塗れば桃源郷、匂いを嗅げばこの世の春が来るぅ!
 奇跡の一品、これ一本!

 その名もぉ〜……“銀竹油”!

 ……どうよ? そこのかっこよくて色っぽい旦那ぁ! ちょっと見ていかないかい?
 なになに? 怪しすぎてみるまでもぉ〜ないってぇ?

 まぁまぁ……物は試しってもんですよぉ旦那ぁ……
 それにぃ、これはぁ、本物ですってぇ旦那ぁ……

 なになに? 腕を掴むな? 足を踏むな? まあまあそう言わずに、見ていきますって一言いえば良いじゃないかあ
 それにぃ……こう見えてあっしは力持ちなんでさぁ……力で勝てるとお思い?


 ……そうそう! 最初からそう言えば良いんでさあ!

 ふっふっふ、先も言った通りこれは本物……正真正銘、天崙山で仙女様と直々に取引した品でございますよぉ〜!

 その証拠に!

 なんと!

 特別価格で!

 これをおつくりになられた仙女様直々に伝えられた!

 えろえろな制作秘話をお話ししますぜ!

 ……どうよ?

 え? 金をとるのかって? それはぁ〜そうでしょぉ〜旦那ぁ〜 物も情報も立派な通貨……世の中ゼニですぜ?
 それにぃ、エロ話でっせ? むらむら確実ぅ、目の前に可愛いメスがいたらぶち犯しぃ、確実ぅ……な話でっせ?
 なんならぁ、旦那はイイ男だからこっちでも……何? 値段? そりゃあもちろん、これだけ……ぇ、払う? ……チッ……

 ひぃふぅみぃ……チッ……意外と金持ってやがる……

 いやいや、なんでもございません
 この刑部狸の青藍(せいらん)めは誠実一筋の商売人でござい、もらうもんもらった以上はしっかりぃ、お勤めぇ、させていただきましょうともぉ〜 えぇ

 それではぁ〜ご笑覧、今は昔……天崙山の仙女様がまだ獣仙と呼ばれていた頃のことでさぁ……






 ……ある天崙山の昼下がり、仙石楼から離れた場所……眼下に小滝と小川を眺めるちょっとした渓谷で三獣拳士が一、岩流のバイヘイ……改めヘイランがのんびりと岩の上で体を伸ばしてごろごろしていた。
 なんとなしにその柔く豊満な体をむにゅりと転がし、気が向けばティエンに作ってもらった蒸し饅頭を手に取ってもきゅもきゅと頬張りながらただ悪戯に時間が過ぎるのを楽しんでいた。
 齢五百にして初めてといえるほど、充実した平穏な日々。この体に変じる前の、かつての巨石ともいえる体に未練がないわけではなかったが、こうして気を張ることなくだらだらと寝転び、帰る場所と待ち人がいるという生活に比べたら些末事のような気さえしていた。だが、同時に考えないわけでもなかった。果たして、いつまでこの生活が、この変異が続くのだろうかと、否……続いてくれるのかと。
 元の体に戻れば……戻ってしまえば、今の繋がりは断たれ……再びあの戦いの日々に戻るのだろう。それは致し方のないこととはいえ、ヘイランは少しばかり物憂げにため息をつく。
 
(……おや、あれは)
 そんな折であった、眼下の川に男が一人、洗い物をしようとやってきていた。身なりからして山に住む隠者のようであった。
 久しぶりに見た、ティエン以外の人間の男を前にヘイランは少しばかり興味をもって眺める。隠者にしてはそこそこ若く、身なりも山暮らしにしては整っていた。男の方はヘイランに気が付いていないのか、警戒心も何もなく鼻歌混じりに洗い物をはじめていく。

 暫く、ぼ〜っと眺めていたヘイランだったが、特に何事も無く洗い物が進むうちに飽いたのか、あくびを一つしてそろそろ帰るかと立ち上がろうとしたその時であった。

 がさりと、隠者の後ろの茂みが揺れ、何ものかがその身を現す。

 「! な、何奴!」
 隠者が叫ぶ。突然の出来事にヘイランは再び興味を取り戻して下をのぞき込む。
 突然の襲来者
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