登場人物
アイオン
主神教団の戦士として訓練を積んだ人物。
故あって現在は教団を離れ、ハイオークのガーラと旅をしている。
ガーラ
ハイオークの魔物娘。
アイオンと共に旅をしている。
怪力かつ強靭な肉体を持つ。
第一 雨道
……霧のような雨が降る、切り立つ渓谷に天を刺す険嶺が連なる山々の中、先人たちが踏み固めた細道を一組の旅人が歩いていた。
毛皮の温かくも頑丈なマントを羽織った二人は、しんしんと降り続ける霧雨を抜けるべく早足で道を急いでいた。歩みを進める度に、かちゃかちゃと荷物が鳴る。
いや、荷物だけではなかった。一人は古びた長剣を、もう一人は大振りな大斧を、それぞれの荷物とは別に背負っていたのである。
「なーアイオン、ちょっと休もうぜ」
フードをかぶった、大柄な旅人が連れに声をかける。からりとした、明るい声から女性だとわかる。
「勘弁してくれ……お前と違ってこんなところで休んだら体が冷えてしまうよ」
アイオンと呼ばれた男の旅人が返事をする、落ち着いた様子だったがその声音には焦りが混じっていた。
「おっ あっためて欲しいってか?」
「はぁ……ガーラ……」
アイオンは相手にするのも疲れる、という様子でガーラと呼んだ道連れ……ハイオークのガーラの方を見る。ガーラのフードの奥から、ふわりと温かい匂いが薫り、ちろりと悪戯っぽく舌を出した笑みが見える。
アイオンとガーラ、この二人が旅を始めてから暫く、季節は実りの月を終えようとしていた。
教会の戦士として育ち、魔物への復讐を誓っていたアイオンだったが、数奇な運命からかつて最も恐れ憎んだ相手であるハイオークのガーラと共に旅をする身となって幾数日。
当てのない旅は思った以上に順調であった、ただ一点、目的地と安住の地が見つからないことを除けば。
この北の大地には大小様々な国があるが、殆どの国は主神の名の下に同盟を結び、実質的に教団の支配下にあるといってもよかった。当然、魔物に対しては極めて排他的……聖戦と称し積極的に魔物狩りをしている国もあるぐらいである。そのため、どのような事情があれ、魔物と共に歩む者は《堕落した裏切者》とみなされ魔物ともども討伐の対象とされている。
だが、それはあくまで首都や栄えた街での話である。寂れた宿場町や辺境の寒村、ちょっと大きい程度の街ならば教会もしくは教団の人間にさえ気を付けておけば案外ばれないものであった。だが、おおっぴらに魔物であること、魔物と歩む者であることを公言できるわけではない。魔物だとわかれば街の人々は恐れ、すぐに兵士や教団の戦士に助けを求めるからである。
そうでなくとも、人間に紛れた魔物や堕落した人物を《密告》することを教会は奨励し、報奨金まで出しているのだ。人がいる場所に、長くとどまることは殆どできなかった。これは同盟に加わっていない国でも同じことであった。教団を支持しているわけではないが、かといって協力しないわけでも敵というわけでもない、むしろ教団も寄せ付けないような排他性はそのまま魔物や外に人間に対しても向けられているといってもよかった。
では人が寄り付かないような山や森の奥はどうかというと、魔物にとっては問題ないが人には過酷過ぎる。かといって、奥地よりかはまだ過ごしやすい人里に近いような場所では、アイオンの兄ステリオのようにいずれ見つかるといった具合であり、とかく安住の地となるとこの北の大地においては殆どないといってよかった。
「見ろよアイオン、すげえ山だなぁ」
結局、歩きっぱなしで疲れてしまったアイオンは霧雨の中、少しでも濡れないように鬱蒼と茂った茂みの下で小休止を入れることに決めるのであった。
湿った草に腰を下ろしたアイオンの横に、同じようにガーラは座るとフードを外して感嘆の表情で目の前の景色を見つめている。
(あてもなく旅をしているが、やはりうまく見つかるものではないな)
かすかにあった、期待。それはこの北の大地で魔物と人が共存している場所がどこかにあるのではないか、というもの。あてのない放浪の旅というのは、順調であると同時にやはり言いようのない、逃亡者であるが故の常に何かに追われているような不安というものがあった。
アイオンはちらりと横を見る。しっとりと霧雨で湿った褐色の肌が、艶めいて目に映る。ガーラはそんな視線に気づくことなく、からからとはしゃいでいた。
(なんだかんだと、助けられてばかりだな)
旅の初めこそ、自分が引っ張らねばと思っていたアイオンだったが、やはり蛇の道は蛇、というように人が通らぬような険しい道の進み方や食料の調達に関してはずっと森で過ごしてきたガーラの方が一枚どころか三枚以上も上手であった。
それにガーラ曰く、魔物の連れがい
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