旅の行く末



登場人物

 アイオン
 魔物の群れを率いる、盲目の元戦士。
 人の手が及ばぬ場所として、妖精の国を目指す。

 ガーラ
 アイオンを愛するハイオークの魔物娘。
 愛用の武器、そして一族と姉の想い出の品である大斧を竜との戦いで失う。

 ティリア
 アイオンを愛するドラゴンの魔物娘。
 意図せずではあったが、己を縛る人の身を捨て去り魔物へと転生する。

 ノチェ
 盲目の戦士を導く小さな妖精。
 長い旅の中で、アイオンを深く愛するようになる。

 カルタ
 ゴーレム使いのケット・シー。
 少しずつ、己の戦い方を学びつつある。

 ヘルハウンドたち
 ニヴ、ザンナ、クロ、プレザの四姉妹。
 かつての、より強大で醜い姿を覚えている数少ない黒狼の魔物たち。

 ゴブリンたち
 盲目のホブゴブリンのパロマに率いられた小鬼の群れ。
 再びあてのない旅となったが、妖精の国という希望を得て元気づいている。






 序 ヤガの娘たち

 ……聖歌が満ちる。
 大小の白亜の塔が連なる、北の大地の聖なる地。主神教団の北の要たる教団の統治国家セントノースの首都アポロノース。
 かつてこの地を拓き神の教えを広めた聖者アポロス、その功績をたたえ忘れぬために聖者の名を冠した都市。それは北の大地における主神の教えの中心であり、同時に魔物たちに対する最も鋭い刃であり最も硬き盾でもあった。

 実り多き地とは違い、厳しい冬に苦しめられる北の大地の教えは厳しく、そして生き残るために源流の教義からは外れるようなものも多く残っていた。
 それは古き教えや魔術の流れを汲むものであり、主神教団の原理主義に法れば異教の教え、禁術にも含まれるものである。だが、北の大地の教団の中には脈々と受け継がれ大樹の根の如く深く張り巡らされ絡みついている。もはや誰も、そのことに疑問を思わぬほどに。
 それは一種の密教、秘術であり、北の大地の外から来たものには決して教えぬ北の教団内におけるある種公然の秘密でもあった。

 それらは名を持たぬ、しかして知る者からは一様にして同じ名で呼ばれている。

 “ヤガの娘たち”

 北の教団内に息づく、密教が一つ。その教えを継ぐ者たち。
 かつて聖者アポロスに仕えた北の呪術師にして魔女ヤガ。北の大地に根付く古き呪術に精通し、星読みの力……それは予言ともいえるほどに正確な、その力をもってアポロスを助けたとされる伝説の大魔女である。ヤガとその弟子たちはアポロスを助ける見返りとして、北の教団の中に地位を得ることとなり、魔女のとしての名を隠すようになった今になってなお教団内の一派として決して無視できぬだけの影響力を持つに至っている。
 その源泉はヤガより伝えられた呪術、そして星読みの秘技である。冷たく凍てついた地、そこに潜む強靭な魔物たちに抗するために編み出された古の術、そして魔物たちの動きを予知する言葉によってヤガの娘たちは教団の兵士を、戦士たちを導いているのであった。



 ……アポロノースの古い大教会。
 その一角にある中庭の渡り回廊を二人の人物が歩く。冬の最中に差し込む、柔らかな陽光が中庭に降り積もった雪に当たり輝いていた。
 「ノラ様……間もなく、大教母様がお待ちになられている客間につきます」
 一人は鎧を着こみ武装した女戦士であり。
 「わかったわ、カタリナ」
 もう一人は教母の装束にその身を包んでいた。
 二人とも、この地に息づく密教の徒……“ヤガの娘たち”であった。

 教母……それは北の大地の中でも独特な立ち位置にある者たちである。教団の教えを広める、という意味では司祭や神父と同じ役割を持つが、その本質は別……いうなれば“魔女”や“巫女”という方が適当と言えた。北の地における聖なる護りの裏の顔、魔の方面における暗い護り、それらを担う存在であった。
 当然、全ての教母がそうというわけではないが、半数、それ以上の教母が何らかの魔術、呪術、禁術を修めた者たちでありその本質はむしろ闇に属するものたちであった。だが、それ故に……北の聖都は何よりも堅牢な要塞になり得たのである。
 ただ清浄のみを是とするのではなく、時として穢れにその身を浸し、闇をのぞき込むことこそが教母たち……聖都の魔女たちに求められる、最大の献身であった。過酷な北の大地において、戦いに手段を択ばぬが故の古き因習。それは脈々と受け継がれ、今なお聖都の地に深く深く……巨木に絡みつく寄生木の根のように深く北の聖都の底に広がっていたのである。

 「大教母様……教母ノラをお連れいたしました」
 堅木で作られた、黒塗りの扉の前でカタリナは軽く戸を叩き来訪を告げる。
 「……お入りになって」
 扉の後ろから年老いた女性の声が響く。その声は細くも、しっかりとした芯が通り、年を感じさせぬ意
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