砂塵の時


 ……砂塵が舞う。
 かつて人々が住み、そして終着の時を過ごした街。山々の最奥、山壁に囲われた盆地に築かれた墓守たちの街。
 そこに、乾いた風に吹かれて、砂塵がきらきらと輝きながら空を舞う。

 そこは滅びた街、滅び……そして忘れ去られた街。

 長い時の中、砂とともに埋もれ掘り出されることなく。永劫の中に横たわる街。

 そこを護る守護者もまた、永遠の時を街とともにする運命にあった。
 それは長い長い孤独な旅。終わりのない、尽きぬ砂時計を眺め続ける旅であった……だが、ここ最近は様相が違っていた。



 街の奥、墓標立ち並ぶ広場を見渡す位置に、守護者が鎮座する神殿はあった。かつてこの街が、まだ生きた街であった頃、魔物はこの地の守護者としてその雄々しき姿を座所に収め、この地がいかに厳正なる地であるかを示していた。

 それは今も変わることなく……魔物は己が座所にいた……その腕、胸の中に一人の人間を抱え込んで。



 ……すんと薫る、香木のように甘く、そして少し岩のような塩気のある匂い。少し湿っぽく、官能的な匂いに包まれながら魔物の胸に抱え込まれた人間……名をリュークという……は目を覚ます。その体に衣服はなく、その半身は魔物の獅子の半身の下に納まり見えなくなっている。獣の半身からはむわりとより一層の熱と濃い薫りが漂い、またじっとりと湿っていた。
 「起きたか」
 もぞりと、その豊満な胸の中でリュークが動いたのを感じたのか、はたまた“下半身”が動いたのを察したのか、魔物はリュークに声をかける。その声音は優しく、それでいてしっかりとしたものであった。
 「あ、ああ おはよう……スフェラ ぅ」
 きゅむっと、スフェラと呼ばれた魔物の半身がリュークの半身を包む。それと同時に“飲み込まれていた”リュークの一部が“奥”へと導かれる。熱く湿り、そして柔く締め付けながらも魔物はことも何気に、座りなおすようにその体をゆする。
 「あっ! スフェラ! そ、そろそろ! うぐっ!」
 もぞもぞと暴れるようにもがくリュークに、スフェラはその逞しい腕を回し、しっとりと火照らせた豊かな胸へとより強く押し付ける。リュークよりも一回り以上大きいスフェラの巨体に彼が包みこまれる様子は、赤子と母のようにも見えた。事実、その大きすぎる実りによって顔と口を塞がれたリュークはびくびくと震えながら、その巨大な“母”の愛に溺れるほかなかったのである。
 リュークの熱を感じ取ったのか、スフェラはより深く体を落とし込み、リューク自身をさらに奥へ、奥へと導いていく。
 にゅるにゅるとスフェラの隧道を進むたびに狭く入り組んだ構造がゆっくりとリュークを包み、ねっとりと湿った蜜とともに輪をくぐるようにくりっと締め付けていく。未知の領域に導かれていくたびにリュークの体は震え、大きく跳ねる。ぐっと、一層強くスフェラの腰が落とされると同時に、本来であれば届くことのない“聖櫃”の扉へと至る。こつん、とより硬く熱い感触を先端に感じ、それが吸い付くようにリュークの“先”を包んだ瞬間。ひときわ大きくリュークはその腰を跳ねさせ……数度びくんと震えた後に全身を弛緩させるようにその力を抜く。

 ぐったりと、スフェラの体に身を預けるリューク。そのリュークの姿を愛おし気に、そして繊細な宝に恐る恐る触れるようにスフェラはその爪をそっと這わせる。

 そのまま再び舐るように、スフェラは腰をひねるように数度くねらせると、その腰の動きに合わせてリュークの口から苦悶とも嬌声ともいえぬ呻きが漏れる。その声を聴くのがたまらなく嬉しいのか、それとも己の中でその存在を主張されるのが心地よいのかはわからないが、スフェラは慈母の如く微笑むと器用にその身を屈め、リュークの口を、舌を己のもので絡めとる。蛇のように長くも、太く肉厚な舌は力強くリュークの口へと割り入りその喉と舌を犯す。舌先からはじんわりと熱く甘い唾液が毒のように滴り、リュークの喉を、じんわりと焼いていく。そのまま暫く、リュークを“上下”で味わいながらスフェラはうっとりとその目を細めていく。

 ちゅぽん、と瓶のふたを引き抜くような音とともにスフェラの舌がリュークの喉から引き抜かれる。しかし、リュークの体は変わることなくスフェラの胸元に抱かれ、一向に開放される気配はなかった。
 「す……すふぇら……そろ、そろ……行かない、と」
 何とか、この母から逃れようともがくも、強靭な鷲の手に捕まれ逃げ出すことは叶わず、また獅子の口に咥えこまれた己の半身に至ってはすっかりしゃぶり尽くされとろとろにふやけてしまっているのにも関わらず、ピリピリと焼け付くような温もりと、奥へ奥へと吸い付かれる心地よさ、溢れて止まらず、つんと薫りねっとりと滑る肉蜜によってもたらされる飽くことの出来ない“快
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