一紡ぎ


登場人物



 アイオン
 魔物を伴とし、旅をしていた戦士。
 罪人として囚われ生きる気力を失うも、再起する。

 ガーラ
 一度は死の淵に立ったハイオークの魔物娘。
 しかし甦り、アイオンを救うために砦を強襲する。

 ノチェ
 アイオンを愛する小さな妖精。
 教母の手によって囚われの身となっている。

 カルタ
 過去を失ったケット・シーの魔物娘。
 砦での戦いでクロとともにノチェを救出すべく奮闘中。

 ヘルハウンドたち
 ニヴ、ザンナ、クロ、プレザの四姉妹。
 旧き姿にその身を変え、ガーラたちとともに砦を強襲する。

 ゴブリンたち
 盲目の指導者パロマに率いられた小鬼の群れ。
 どんな苦境にあっても、パロマのために明るく気丈に振る舞う。

 ティリア
 鮮やかな紅の姿を持つ、竜と化した娘。
 その力は強大無比。







第一 再会

 ……白い雪が舞い吹雪く荒れ丘、そこに建つ砦で炎が舞う。
 砦のあちこちからは黒煙が上がり、砦を守る兵士と、そこで過ごしていた人々の叫びが闇の中に広がっていく。それに混じるように、そしてあまりにも不釣り合いなほど明るい少女たちの笑い声と雄叫びがこの恐るべき一夜を彩っていた。
 砦が築かれて幾百年、数多の戦いの中、幾度となく陥落し、主を変えてきた。その砦が今宵、百年ぶりに再び落ちようとしていた。

 魔物の手によって。

 そんな砦の中庭で、ある魔物たち……獣戦士、黒狼、そして竜……それが対峙していた。獣戦士は黒狼を従え、竜はそれに向かい立つ。竜は灼熱の炎を纏い、あらん限りの怒りと憎しみを籠めて獣戦士を睨む。己の爪で
#25620;き毟った顔からは血とともに漏れ出でた魔力が紅く紅く舞い散り、その美しい顔を彩っていた。その情念に狂った顔立ちは、人ならざる妖美を宿し、人を惹きつけると同時にどうしようもなく恐ろしく感じさせるものであった。

 その竜に向かい立つ獣戦士は全身に焦げ鉄の鎧、あまりにも不格好な、それでいてどこか妙にしっくりとくる出で立ちで獣戦士は大斧を構える。その力強い意思にあふれたその黄金色の両眼に時折蒼い炎がちらりと混じり、畏怖すべき存在である竜に対し決して引くまいと訴えかける。兜からちらと見える顔立ちは、竜とはまた違った美しさを宿していた。
 どこまでも妖しく炎のような美が竜だとすれば、獣戦士のそれは雄大な大木、大地における生命を感じさせる美であった。

 そして、その獣戦士と竜、両者の目的は不思議にも合致していた。
 獣戦士は、一振りの剣と例えただろう。
 竜は、一粒の宝石と例えただろう。
 一人の戦士、両者が互いに愛し愛した一人の男。

 その男がこの砦に囚われていた。

 故に獣戦士は魔物を引き連れ……そして竜は……脆弱な己の殻、人の肉体を破り怪物と化して、砦を襲ったのである。
 どちらも欲深き魔物の性か、それとも因縁故か……獣戦士と竜は相いれることなく戦いへと陥った。どちらも求めるものは同じ、だが獣戦士は竜より奪った、奪う形となったものを守るために、そして竜は奪われたもの奪い返そうと、互いに牙を剥いたのである。

 竜の力は強大であったが独りであった。
 獣戦士は群れを成し竜に抗した。

 独りでは、叶わぬ竜であっても獣たちは群れを成せばその力は抗するに値した。故に戦いは拮抗していた。

 そして、その戦いの場に男が立つ。
 同じく囚われていた魔物の力を狩り、牢を破り、その見えぬ目のまま前を向くのであった。






 「 ティリア! 」

 叫ぶ、竜と化すほどにまで己を欲した女の名を。
 その声は吹雪く風音と燃え盛る炎の鳴り声に掻き消されることなく、竜の、女の耳に届く。

 それと同時に、薫る。
 風の中に渦巻く、男が愛し伴にあると誓った。あの薫り。

 「 ……ガーラ……? 」

 愛する者の名を、呟く。
 死したと思った、思っていた。己が咎のゆえにその身朽ちたと……焦げ付く匂いの中、己は幻覚を感じているのかと、アイオンは自問する。

 だが……

 「 アイオン……ッ! アイオン! 」

 力に満ちた声で己の名が呼ばれる、間違いない。
 無意識のうちに、男の足が前に動き、手を伸ばす。
 確かめたい、本当に、本当に彼女が生きているのだと、その熱を感じたいと。

 だが、その動きを忌々し気に見るものが一つ。

 耐え難い苦痛のままに咆哮を上げ、空を舞い、その両腕を振るう。

 獣と戦士、その離れがたい結びつきを見た竜の……狂おしい嫉妬、苦しみの発露であった。



 第二 渦巻く炎

 風が切り裂かれるような音とともに、鉄と岩がぶつかるが如く轟音が響き渡る。
 振り下ろされた竜の両鎚を獣戦士はその全身と大斧をもって受け止めるも、恐ろしいまでの力が獣戦士の全
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