紅炎 ※エロなし

2022/7/29 第四と第六の表題が重複していたので第六を修正

登場人物



 アイオン
 魔物を伴に旅をする元戦士。
 戦いの果てに両目を失い、虜囚となる。

 ガーラ
 アイオンを伴に旅をするハイオークの魔物娘。
 戦いの果てにその命を落としてしまうも……?

 ノチェ
 アイオンを愛する妖精の娘。
 愛する者の絶望と喪失に心が壊れかけている。

 カルタ
 アイオンを伴とし、旅をするケット・シーの魔物娘。
 己の非力さ無力さに苦悩しつつもできることを精一杯やっている。

 ヘルハウンドたち
 アイオンを伴にし、護り愛すると誓ったニヴ。
 ニヴの子分で取りまとめ役のザンナ。
 小柄で少し頭の悪いクロ。
 貧乏くじが多いプレザの四姉妹。

 ゴブリンたち
 ホブゴブリンのパロマに付き従うゴブリンの魔物娘たち。
 厳しい北の大地の中で追われながらも慎ましく生きている。

 ティリア
 アイオンを愛し、探し続けている教会のシスター。
 たった一粒、雪中の宝石を探し続けている。












 序 灯火、二つ

 ……ある森に、一匹の魔物がいた。
 暗く、蒼い森。ぼんやりと丸い蒼月が靄にかすみ、空の上で寂光を漂わせている。
 その月明かりに照らされた魔物は幼く、そして孤独であった。

 その小さな両手で顔を覆い、目をこすり、すすり泣きの声を上げて。

 風は冷たく、凍えるような夜。
 誰か、温もりを……そう願っても、森の中には誰もいない。

ただ、ただ一人。

 とぼとぼと、あてもなく歩く。泣きながら、歩く。
 風にあおられた木々が、もの悲しく啼く。その音に怯え、魔物は木に寄り掛かり隠れるように、根元に座り込む。

 おねえちゃん……エデルねえちゃん……

 魔物が、ぼそりと呟く。誰よりも、何よりも頼りになる、姉の名を。
 いつも、こんな冷たい夜は抱きしめてくれた。
 いつも、こんな寂しい夜は傍にいてくれた。
 いつも、こんな怖い夜は守ってくれていた。

 でも、もう守ってくれる姉はいない。

 姉は人に負けて、その人のものになってしまった。みんなみんな、変わってしまった。

 おなか、すいた……

 いつも、そう言えば誰かが食べ物をくれた。
 でも、今は誰も、くれない。
 魔物は凍える体を独りで抱いて、小さく鳴るおなかを抑えようと丸くなる。
 それでも、体は冷たくて、おなかは鳴りっぱなしで。

 ただ、たださみしくて、かなしくて、魔物は泣いた。

 そんな夜に、ふわりと優しい風が吹く。

 だれ?

 目の前に、黒衣をまとい捻れ木の杖を持った、魔女が……魔女様が立っていた。
 魔女様は、小さく微笑むと、小さな魔物の顔をのぞきこむ。

 かわいそうに……

 群れからはぐれた……追われた小さなあなた……

 ふうっと、ため息を一つ。魔女様は微笑む。

 つらかったでしょう……いたかったでしょう……

 しんとした、冷気が漂う。骨まで染み入るような、寒さに魔物はより強く、己の身を守るように抱く。その様子さえも、愛おしそうに魔女様は笑って見つめていた。

 でも、大丈夫……もう、つらいことはないわ……

 私と、一緒にいきましょう?

 ……かわいそうな、あなた……

 囁き、そして手を差し出す。透き通るように白い、その手を。冷たく輝くような魔女様の手を前に、幼い魔物は怯えるように身をすくませる。

 だれ? どうして?

 怯えながらも、精いっぱい魔物は問う。あなたは誰なのかと。
 どうして、見知らぬ自分に……そんな優しく微笑みかけるのか、魔物にはわからなかった。

 ほら……

 でも、それでも……魔物は手を伸ばす。
 魔物は、嫌だった。一人でいるのが、寒いのが、飢えが……ただ、誰かに守ってもらいたかった。
 だから、その手を伸ばす。

魔女様の手を、掴もうと……

 ゆっくりと、魔女様の笑みが三日月を描いていく。



 だめ!



 突然の叫び。
 びくりと、驚いた魔物は手を引っ込める。

 だめ! よく見て!

 幼くも、凛と芯のある少女の声が魔物の耳に響く。
 その声につられ、魔物は顔をあげ、そして悲鳴をあげる。

 ぽっかりと、黒く空いた、魔女様の目
 口の中も、まあっくろ

 はやく! こっちへ!

 いつの間にか月は消え、闇があたりを覆う。その闇の中に、蒼い炎が揺らぐ。
 魔物は転がるように、魔女様の前から逃げると這うように炎を追う。

 どこにいくの?

 くすくすと、魔女様の声が闇から響く。

 こっちにおいで、かなしいあなた

 じんと、芯から冷える。囁き。
 それを振り払うように、魔物は走る。

 まって!

 蒼い炎へ、向かって走る。

 早く! 私の手をとって!

 蒼い炎が、少女を象り
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