三獣拳士(の妹)集結

 ……かつて天……神である太陽に近づきすぎたがために、その羽を焼かれ地に落とされた天使がいたという……遥か西方から伝わった伝承の如く、ティエンの意識が焼き滅ぼされ壮絶な最期を遂げてから数刻。ライフー改めタオフーと、バイヘイ(白黒)改めヘイラン(黒蘭)、フオジン(火金)改めフオイン(火銀)はとりあえずティエンを仙石楼の一室に寝かせ、密談に興じていた。
 「……まさかあやつが女体に弱いとはな わしもわからなんだ」
 そう言って胡坐をかくヘイラン。その体にはタオフーの言で仕方なく、いくつかの布を巻きつけていたが、その粗野な風貌であってもなお豊満かつ妖艶なその体を隠すまではいかず、むしろどことなくさらに妖しい雰囲気を纏うようであった。
 「なあ!なあ! 見てくれよ俺のこの長い脚! それに手だ!」
 さてどうしたものか、悩むタオフーとヘイランとは違い、フオインは無邪気に自身の変化を喜んでいるようであった。そうというのも、たびたびタオフーとヘイランに“鼠の短い手足で武術の何ができる”とバカにされていたからである。当然、その恨みは忘れてないが、突然降ってわいたこの変化は、雄から雌に変わってしまったというちょっとどころではない喪失感以上にフオインにとっては嬉しいもののようであった。
 そんなフオインも、慣れぬ衣服というものを何とか羽織っているものの、上半身はともかく下半身は動きづらいと言って紐のようなものを巻いているに過ぎなかった。
 「当面の問題は、なぜ我らがこのような姿になってしまったかだ」
 タオフーが神妙な顔つきで、問題を述べる。だが、ヘイランもフオインも理由を知るわけなく、三人はそろって口を閉ざすしかなかった。
 「……それ以外にも問題はあるぞ あの小僧をどうする やはりさっさと殺してしまった方が」
 「ダメだと言ったはずだ、バイヘイ 少なくとも、今はな……元の体に戻った暁には言われずともこの手でケリをつけてくれるわ」
 「でもよライフー、どうするんだ こいつ、帰る気はないんだろ?」
 隣の部屋で、意識を失っているティエンを六つの瞳が射抜く。ティエンが意識を失って暫く、ヘイランはこの際憂いがあっては不味いのでさっさとティエンを討ち取るべきだと主張していた。だが、タオフーはその度に約定のことを持ち出すと同時に、今の我らで勝てるかはわからんと釘を刺すのであった。実際、あまり体躯の変化がなかったタオフー、むしろでかくなったフオインと違い、ヘイランはかなり小さくなっており、その大きさは大岩のようであった元の体とは違い、ティエンと同じかそれよりもやや小さい程度にまで縮んでしまっていた。
 「元の体と言うがな、今の体でも力はそのままよ 捩じ切ろうと思えばこのように」
 そう言ってヘイランは、おやつ代わりに拾ってきていた銀竹を易々と握りつぶす。そのままくしゃりと潰された銀竹をバリバリと貪る姿は若い山姥のようであった。確かに、ヘイランの言う通り力にそれほど大きな変化はないようであった。やろうと思えば、ティエンを殺すことはできるだろう。だが、それはやはりタオフーには到底許すことはできなかった。あくまで武人の誇りとして、である。
 「……暫くはあやつにばれぬようにして過ごすしかあるまい どちらにせよ無暗に動き回ったところでこの異変の原因はわかりそうにないからな……」
 「はぁ〜……となると、一芝居打つことになるわけか……」
 「まあ、いいぜ 妹ってことにしとけば良いんだろ?」
 全員、揃いも揃ってそれぞれの人の血が入った妹ということでティエンを騙しとおすという方向で一致していた。それも全員、同日に急な用事でいなくなり、それを探しに来たのだという、無理のある言い分で押し通すことにしたのである。

 「む!」

 (見知らぬ天井……どうやら意識を失っていたようだな)
 何か、素晴らしいものを見た。それは太陽のように……
 (くっ! 意識が……っ 眩しい! 何を見たか思い出せない……!)
 「起きたか」
 眉間を抑えるティエンに、タオフーが声をかける。
 「! これはタオフー殿! 迷惑をおかけした!」
 タオフーの存在に気付いた途端、ティエンは素早く姿勢を正して礼を述べる。
 「突然意識を失って、心配いたしましたわ」
 嫋やかな声で、タオフーの横からヘイランが顔を出す。いつの間にか、振り乱していた髪は一つ結びのおさげでまとめられ、それを肩から流す姿は淑やかで、とてもではないが先ほどまでの山姥とは思えなかった。
 「あ、こ、これは申し訳ない! 貴女は?」
 「わたくしは……ヘイランと申します、その……兄であるバイヘイを探しにこちらまで……」
 「なんと! 貴女も……」
 (誰だこいつ)
 (誰だこれ)
 流石は老練巧智の古熊猫といわんばかりの変りぶりに、タオフ
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