その人と出会ったのは9月終わりの少し肌寒い時期だった。
コンビニの夜勤明けの、呆けたような僕の頭の中を一辺に覚醒させる登場だった。
帰り道の途中に銀杏並木の通りがあるのだが、その中でもひと際大きな
文字通りの大イチョウの木に女が一人ぶら下がっていた。
いや別に首を吊っていたわけではなく、幹のように太い枝に
全体重を預けるかのようにうつ伏せに寝ていたのだ。
僕は足を止めると約5m前方斜め上の非日常に見入ってしまった。
早朝の為薄暗いとはいえやはり目立つ。服装は白いブラウスに
ハイウエストの黒いスカートだから会社務め…OLだと思われる。
顔は良く見えないが、見慣れた銀杏の木からぶらさがる
女独特の白い足がはっきりと対象を際立たせていた。
なんというか
何か特別な瞬間にであった気がした僕は携帯を取り出すと素早く全体図を納め二枚写真を撮った。何故そんな事をしたのか聞かれると返答に困るが、若者の性だと言い訳しておく。
そして、周囲に誰もいないのを確認するといそいそとその場を離れようとした。
「おい変態」
木上から澄んだ声が響いた。僕はあからさまにビクついたものの振り返る。
「お前今私の写真とったろ?」
痴漢で捕まるってこういう気持ちナノカナ?そんな事を考えながら僕は目線をそらす。
「撮ったんだろ?」
「・・・」
「あぁッ?」
「はい!?・・・撮りました・・・」
「撮ったんだな?」
「はい・・・」
「じゃあ、ちょっと手伝え。」
「・・・?」
「ちょっと降りるの手伝え。」
「よっせっ・・・と」
女がゆっくりと身を起こしこちらを窺う。正直僕は先程のやり取りで
この女に対し恐怖心をもっていた。どうする自分、いっそ
このまま逃げるか?
「じゃあ、行くぞ」
「へ?」
ドシャァ
女が木の上から落ちて来た。
体全部を投げだすというより、下に引いたマットに着地する要領で足から落ちて来た。
僕は彼女の着地の衝撃をもろに全身で受け地面へと崩落ちる。
「ぅうッ!?」
鈍いうめき声と共に仰向けになった僕の上で女が悪態をつく。
「いったぁあ・・・あんた・・・男でしょ?女一人くらい受け止めなさいよ」
無茶を言う。
腰と尻をしこたま強打し直ぐには立ち上がれない僕とはうって変わり
女はすっと身を起こすと体に着いたゴミでも払い落す様な仕草をした。
彼女なりの”お疲れ様”なのかも知れない。そう思わないと心が折れそうである。
僕はひんやりと冷たい秋のコンクリを背中に感じながら、沸々と湧き上がる怒りにまかせて
勢いよく立ちあがる。続けて眼前の女を睨みつけた。
「お!元気じゃん」
対面した僕を面白そうに見詰め、そう呟く女。
年齢は僕より上の様で30は過ぎている風であったが
茶色い瞳に少し切れ目、形のいい小さな唇には艶があり
キューティクルが視認できそうなウェーブのかかったロングの黒髪
痩せ形の体つきに不釣り合いな、ブラウス越しにもわかる豊満な胸元
きめ細かい雪の様に白い頬には、ほんのりと朱がさしていた。
今まさに僕が不満をぶつけ様としたその不満の元凶たる女は、普通に美人だった。
「どぉした?だんまりか?」
やけに馴れ馴れしく喋りかけ、さらに顔を覗き込んでくる女。
本当なら今頃家についてシャワーでも浴びている頃なのに、人の気も知らないで。
「盗撮の事気にしてんのか?まぁなぁ。こんな良い女中々お目にかかれないだろうからな」
こいつ・・・。というかそもそも、木の上の女撮ったから何だというのだ?
これを盗撮と呼ぶなら普通の風景写真に人が写り込むだけで違法だというのか?
馬鹿馬鹿しい。ここはひとつガツンと言わねば。
「ねぇあんた、ちょっと私にお金貸してよ?」
「!?」
口撃しようとした矢先に先制パンチである。こんな理不尽があっていいものか。
そもそも僕は彼女の手助けをしたんだからお礼こそすれ金銭を要求など以ての外だろう普通。しかし、やっかい事はもう御免である。こちとら夜勤明けなのだ。
「なぁ頼むよ・・・って、おいっ!?」
くるりと踵を返しそそくさとその場を離れようとする僕。
TVでも見たがこういう手合いはまともに相手にしても裏目にしか出ない。
もしかしたら新種の美人局かもしれない。早朝から美人局も無いだろうとは思うが。
「おらーーーー!逃げんなぁあああ小僧ぉおおおお」
後方からもの凄く乱暴な言葉が響く、まったく顔立ちに反してなんという女だ。
「そぉーいう態度で来るんだな?じゃ、こっちも黙っていないからなぁ
大声で変な事されたって叫んじゃうぞーーーーーーー?」
もうその言葉が既に大声なのである。故に数十メートルはあろうかという
距離まで離れたのに僕の足はピタリと止まる。振り返った僕が目にしたのは
仁王立ちしながら人指し
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