それから一週間後。
「よう、黒曜。今日のお供え、蕎麦稲荷」
小太郎は今日も黒曜稲荷を訪れていた。
手にしたスーパー袋ごと、社の縁側に腰掛ける黒曜に手渡す。
「また来たの? って言うかマニアックなもの持ってきたわね・・・・」
スーパー袋を受け取り、中身を確認し、呟く黒曜。
ちなみに蕎麦稲荷とは、いなり寿司のあげの中に、茹でて麺つゆに絡めた蕎麦を詰めた一品である。
「スーパーで売っててさ、珍しいから買った」
ぶっきらぼうに答えると、小太郎はいつものように、黒曜の隣、社の縁側に腰掛ける。
「ふぅん・・・・・ありがと・・・・」
同じく黒曜もぶっきらぼうに答えるが、その喜びようは、絶え間無く振られる二ツ尾と、ピコピコと楽しげに揺れる狐耳が、物語っていた。
「・・・・・・・・・・」
耳と尾をピコらせながら、スーパー袋に顔を突っ込むようにして、蕎麦稲荷のパックを取り出す黒曜。
そんな彼女にふっと、一瞬だけ暖かいまなざしを向けると、小太郎は尻ポケットからカバーのついた本を取りだし読書を始めた。
―――この一週間。
いつしかこれが、二人の日課になっていた。
昼前か昼過ぎごろ、お供えを持った小太郎がやってきて、それを黒曜に供える。
そして、黒曜がお供えを食べ終わるか、酒を飲んで寝てしまうまで、あるいは暗くなるまで、小太郎は読書をするか掃除をする。
あまり言葉は交わさないが、それなりに楽しい日常だった。
「はむはむはむ・・・・・」(←蕎麦稲荷租借中)
「・・・・・・・・・・・」(←そんな彼女を暖かく見つめている)
「はみはむはむ・・・・・むぐっ!」
「ほら、お茶・・・・・」
ペットボトルの蕎麦茶が、すっと黒曜に差し出される。
「・・・・んぐっ・・・・・ぷはっ・・・ありがとう、小太郎」
「どういたしまして・・・・・・」
そう言いながらも、本から目を逸らさない小太郎。
「・・・・・・・」
そんな小太郎自身の事が、黒曜は初めて気になった。
「ねぇ・・・小太郎? いっつも本読んでるけど・・・何読んでるの?」
「・・・・・・」
「あ、いや、そのね。言いたくないなら良いんだよ、別に」
「参考書・・・・・」
「え?」
「参考書・・・・・ただ勉強してるだけ・・・・」
言って、黒曜に本の内容を見せる小太郎。
内容は、各教科の要点やテストに出やすいポイントなどが纏められた総合教科の参考書だった。
【コレがポイント】と、狐耳のキャラクターが、要点を指差して強調していたりと、お固いだけの参考書ではないようだ。
「小太郎・・・・学生なの?」
黒曜が訝しげに問う。
いつも小太郎がやってくるのは、昼過ぎか昼前。
ふつうの学生ならは、校舎でで勉学に励んでいる時間帯だ。
「いま高校2年。んで無期停学中・・・・もうすぐ2週間だからそろそろ解けると思う」
なんでもないことのように答える小太郎に、黒曜は頭を押さえる。
「あんた、学校でなにやらかしたのよ・・・・・しかもその反応、停学慣れてるわね・・・・・」
「一応。一回留年してるし」
パラパラと、参考書をめくりながら答える小太郎。
「ほんと・・・あんた、いったい何やらかしたの?」
黒曜の疑問に、小太郎はパタンと参考書を閉じて、彼女へと向き直る。
「具体的に言うと・・・・・実は最近この辺の学校に転入したんだ、俺。そんで転入早々、番長っぽい奴に絡まれて、金を奪われそうなったから、一発殴って逃げた・・・・そしたら、次の日20人ぐらいに学校の屋上で囲まれて・・・・」
ぽつりぽつり、と語り始める小太郎。
「ボコボコにされたの? 被害者なのに一発殴っただけで停学?」
「うんにゃ、無傷で全員返り討ちにした」
完全に真顔で言われ、思わず面食らう。
「ごめん。想像の範疇越えてたわ・・・・・」
再び頭を押さえて首を振る黒曜だった。
「昔からそうなんだよな、真面目に学校行ってるし、授業だってちゃんと受けてる。テストもちゃんと点を取ってるけど・・・・・」
「喧嘩ですべてがパァなのね・・・・?」
「・・・・・・ん、不良でもないのに不良扱いされてんだ」
そういいながら、再び参考書を広げてる。
おそらくは、停学中授業にでられ無い分を参考書で補填しているのだろう。
そんな小太郎に黒曜はふっと近視感を抱いた。
(ああ・・・そうか・・・こいつ、不器用な生き方しかできないんだ・・・・昔のあたしみたいに・・・・)
「ねぇ、小太郎・・・・あんた、あたしみたいね?」
一度思ってしまえば、そう言わざるを得なかった。
「黒曜・・・みたい?」
訝しげに聞き返す小太郎。
「ちょっと長い話になるけど、良い?」
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