プロローグ

 某月某日 大安吉日
 都内某所 結婚披露宴会場

俺の名前は………いや、あーく、とでも呼んでくれ。ネットで使ってるHNだ。
今日は結婚式だ。俺の一番大好きな、後輩の、“彼女”の………。
でも、その隣に立っているのは………俺じゃ、無い。

「なーに辛気臭い顔してるにゃ、こんな日に………もっとしゃきっとしろにゃ………」

 話しかけてきたのは友人の妹のK子(仮名)、頭から突き出したネコ耳と、ドレスのお尻からのぞく、ぴょこぴょこ揺れる尻尾は、コスプレではなく自前のもの。
 そう、K子は人間じゃない、【ワーキャット】と呼ばれる“魔物娘”だ。
 およそ数十年前、突如として開いた異世界との扉。
 そこに住んでいたのは、女性しか存在しないサキュバス化した様々な魔物娘。
 そして、彼女達が望んだのは此方の世界への移住と交流。
さらに世界中に隠れ住んでいた魔物娘もこの機会に姿を現した。
まぁ、最初のうちはかなりゴタゴタやら政治的な色々やら、差別とか人権問題、さらに宗教問題やらなんやらで戦争一歩手前までの反発等が合ったらしいが、いまやそれらの問題も殆んど解決し、世間はおおむね、移住してきた魔物娘たちとの共存を受け入れている。
 特に、日本は最初期から積極的に魔物娘との共存を受け入れていた。 
やはり諸外国では宗教的な問題が大きく、魔物娘たちにとっては暮らしにくいらしい。
 ところが日本は古来から、人外と人間が交わってきた歴史を持ち、また、宗教的な意識も薄く、さらに漫画やアニメ等のフィクションで、“人外の女性”へ憧れを抱いていた者も多かったため、反発どころか諸手を上げて魔物娘達を受け入れた。
そして今、殆んどの魔物娘たちは、この日本で生活している。

「別に………なんでもないから、気にするなよ」

ごまかすように呟いて、“彼女”から視線を外した。

「はぁ〜あ、あの娘に先越されるなんて、思ってもみなかったにゃ………」

 少し残念そうに頬を膨らませるK子。
 ほんの一年前まで、付き合っていた彼氏が居たけど、ある日ぐでんぐでんに酔っ払って
俺の部屋に転がり込んでぶっ倒れて『あんなヤツもうしらないにゃー!』とか叫んでそままコタツで丸まって就寝。
翌日問い詰めても完全黙秘、なにがあったのか語ろうとせず、結局その日を境に彼氏と別れ、今現在フリーである。

「だったら別れなければ良かったのにね………そう思うだろ、あーくも」

 K子の隣に立っていた、長い黒髪にドレス姿の美しい“男性”が言う。
 そう、彼はK子の兄、K人。
 妹と種族が違うことに関しては………まぁ、察して欲しい。
俺の昔からの友人であり同僚であり………自称男の娘、そういう趣味の男だ。
 どこからどう見ても美しい女性にしか見えない、相変らずいろんな意味で凄いヤツ………

「結局なにがあったかも解らずじまいだからね、答えようが無いよ」

 はぁ………と溜息を付いて、俺は再び後輩を、“彼女”を見る。
半年前にお見合いしたという、“彼女”の隣に居る人は………まぁ、言っちゃあ悪いが普通だ、特に特徴も無い。
 でもなんとなく真面目そうで、優しそうで、人当たりは良さそうだ、きっと“彼女”を幸せにしてくれるだろう。
 そして、その隣に居る“彼女”の肌は青白く、その髪の色は雪のような純白。
 体調が悪いのではない、もともとそういう色なのだ。
 そう、“彼女”もまた、魔物娘。
 それも、異世界から来たのではなく、もともと日本に居たという魔物娘の一族“雪女”。
 K子から紹介されて知り合って、お互いオタク趣味があったから気があって、異性の友人と言う形でずっと過ごして………
 “彼女”のことは、なんとなく可愛いな、と思っていたけど………
だんだんその思いは恋に変わってきて………でも、この関係が壊れるのが怖くて、言い出せなくて………
 大学卒業、そして就職。
 就職してからは、“彼女”と会う機会が減ってしまって………
 だんだん、メールや電話も少なくなって………
 半年前、久しぶりに掛かってきた電話も、適当にあしらって切ってしまった。
 その一月後、彼女からメールが届いた。

【お見合いした相手と、結婚することになりました】

本当に大切な者は、失って初めてわかる。
 皮肉なことに、“彼女”を失って初めて、俺はこんなにも“彼女”の事が好きだったんだと気が付いた。
 どうして今、俺は“彼女”の隣に居ないんだろう。
 あんなに側に居たのに、彼女はこんなにも遠い。
 でも、“彼女”は、今日、手の届かないところに行ってしまう。
 映画『卒業』みたいな真似も不可能。
 花嫁を掻っ攫う度胸も無いし、そもそも“彼女”の気持ちは、俺から離れてしまっている。
ああ、過去に戻りたい。
 過去をやり直せる、そんなチャンスがあるのなら、今度
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