今回の一件の始まりは、私がたまたま一泊した、とある新魔物領の港街。
その朝の町並みを散歩していた時だった。
「あら〜、これは王女殿下やないですかぁ、なしてこんな港町に?」
外見の認識阻害をかけているにもかかわらず、一瞬で私をリリムと見抜き、声を掛けてきた刑部狸。
頭にちょこんと載せた木の葉のアクセサリーに、ぴょこんとした丸い耳とふわりとした尻尾、緑の着物姿に背中に賞品を入れた葛籠を背負った、行商姿。
後から聞いた話だが、認識阻害を突破したわけではなく、商人のカンと金の匂いでリリムとだけ確信し、カマをかけたらしい。
私があの「ナーラ=シュティム」だとは、名乗られて初めて気がついたそうだ。
その後、彼女が食材の卸売商だったのもあり、食いしん坊の私とは食事談義で意気投合。
『最近、ウチが目をかけてる料理人がおるんですよ。しかも此方では珍しい霧の大陸の料理を作る子なんですわ〜』
と言われ、昼食を取るならば是非オススメしたい、と案内されてきたのがココだった。
【麻婆豆腐専門店】
そう書かれた看板を掲げ、大通りから一歩入った静かな路地に店を構えている食堂が、私達二人の眼の前に有る。
「あさ、ばあ、とうふせんもん?」
コレ、ジパングの文字・・・漢字よね?
豆腐はまだわかる、だが麻と婆? 全く料理の全容が見えてこない。
「いえ、霧の大陸では漢字の読みが少しちがうんですわ〜、マーボー豆腐って読むんですぅ」
ニコニコとしながら答える、私をここに案内した刑部狸。
えーっと、たしかもらった名刺には『浅黄』(あさぎ)って書いてあったわね。
「麻婆豆腐、ねぇ・・・・」
霧の大陸の料理はあまり知らない、まだ此方にほとんど浸透していないのに加え、まず作れる料理人が絶対的に少ないのだ。
それがこんな所に居たとは・・・・
「まだ店開いて数ヶ月ほどやから、他の街にはまだ伝わっとらんのですわ〜」
よく見れば、まだ【支度中】と書かれた札が下がっている。
時刻は十一時過ぎ、たしかに昼の営業には少し早い。
と、浅黄は懐をゴソゴソと弄り・・・・
「勝手知ったる合鍵〜♪」
とても、いい笑顔でそれを取り出した。
不思議とテテテテッテテ〜♪ と効果音が聞こえた気がする。
ガチャン。
い、いいのかしら、あれ?
さも当然のように鍵を開けてるんだけど・・・
「ええんですよ、それに、この時間カギ開けとらんとなると・・・・」
そう笑顔で言いきる彼女に続いて店に足を踏みれると・・・・
「グゥ〜・・・・ZZz・・・」
玄関前で、地面にうつ伏せで突っ伏して青年が寝ていた。
しかもイビキまでかいて熟睡中。
「えっ・・・・と」
状況が理解できない。
一瞬どうすればいいか解らず、私は思わず絶句する。
そんな中、彼女は懐から帳面を取り出し、迷うこと無く、眠る青年の頭に振り下ろした。
「はよ起きぃ!」
スパーンッ!
非常にいい音が店内に響く。
「あ、大丈夫です〜、ナーラ様、すぐに叩き起こしますんで〜」
笑顔で振り向きながら、さらに一発。
「えっと、大丈夫なの・・・かしら?」
それはもう、いろいろな意味で、だ。
「いつもの事ですから、何の問題も無いですわ〜」
「・・・・・・・・(汗)」
いつもこんな事してるのかしら・・・・この二人?
――――――――
数十秒後、もぞもぞと身をよじって、青年が目を覚まし、呟きながらのっそりと起き上がる。
「・・・・・いっ・・・痛ぅ・・・・・・・」
なんというか、清潔感を感じさせる短く刈り込まれた黒髪。
年若い青年だが、目がしょぼしょぼというか、トロンとしているというか、寝起き関係なくぼーっとしているこの顔が彼のデフォルトなのだろう
「ま〜た、玄関先で寝とるからやろ、レイジ。大方、朝イチで豆腐作ってそのまま?」
腕組みをして、頬をふくらませて少し怒った様子で答える浅黄。
「あはは、面目ない、浅黄さん。眠気が限界に達しまして・・・・」
レイジ、と呼ばれた青年は、頭を掻きながら照れくさそうに答える。
「今日は、新しいお客さん連れてきたったんやから、ちゃんとしぃや、まったく・・・」
と、腕組みをほどいて浅黄は此方に振り返る
「えーっと、幻滅せんといてくださいね、ナーラ様。このコ、ぱっと見だらしないこんなんですが、腕は確かですから・・・・」
尻尾でペチペチとレイジを叩きながら、頭を下げる浅黄。
「いやぁ痛ッ、その、お恥ずかしい所を痛ッ・・・・面目ない」
尻尾でペチペチされながら頭を下げるレイジ。
「あの、そろそろ夫婦漫才辞めて話を進めてもらえないかしら? 私正直お腹すいたんだけど・・・・」
実は、浅黄
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