ラインの天使

午前6時。僕、ローラン・ダランは朝食を作るために立っている。
今日の献立はいつものトーストに目玉焼き、ベーコン……あと、ちょっと余裕があるから簡単にポタージュでも作ろうか。
……いつものように姉さんが引っ付いてこないため、家事をこなしやすくなっているのだが、少しものさみしい感覚になる。
やっぱり僕も姉離れができてないんだろうなぁ……
……僕が教団師団の人たちにさらわれたあの事件から、一週間がすでに経っている。
僕が教団師団の研究所(だったらしい)で気絶してから、相当時間が経ったそうで、寝覚めた時にはすでにラインの診療所のベットの上まで運ばれていた。どうやら、僕が気絶している間に姉さんたちが助けてくれたらしい。
そして、その姉さんはというと……

「姉さん、起きてる?」
「あー……うん、起きてるわよ……」

準備がひと段落したから、姉さんを起こしに部屋に入ると、姉さんは布団に包まったまま返事をした。

「おはよう姉さん。調子は?」
「まだちょっと悪いかなぁ……」

あの事件のあとから、ずっとこうだ。一日の三分の二くらいはベットの上で寝転がってしまっている。
お医者さんや姉さんが言うには、氣の使い過ぎで体が正常にはたらかなくなっているらしい。歩けるには歩けるが、フラフラとしていてとても外に出れる状態ではなかった。

「あ、もしかして、ご飯できた……?」

よっこらしょ、とベットを降りて立つ姉さんの右側は、手から肩にかけて、包帯でガチガチに固められている。
病院で目覚めてすぐに姉さんのこの状態を見た時は驚いたものだ……まさか、あの丈夫が取り柄な姉さんがこんな大怪我をするなんて、思ってもいなかったよ。

「いや、もう少し寝ててもいいよ。今ちょっとポタージュを作ってるから」
「ん〜、でも起きとくわ。目が覚めちゃったし……」
「そっか。肩かした方がいい?」
「うん!して!」
「はっきりとしていい返事だね……」

まったく、僕の関わることになるとすぐこれなんだから……と呆れながら姉さんに肩を貸す僕の気持ちは、昔と違って少し複雑なものとなっていた。
その原因は、昔の、僕がここにくる前の、幼い頃の記憶。
僕の故郷は……いや、僕の出身地は、教団の人たちによって跡形もなく消されてしまった。そして、姉さんも元はその教団の構成員であり、まさにその時現場にいた一人であった。
……あの教団の人と出会った時から、思い出した。僕の生まれた場所が、白い光に包まれて、黒い大地に変えられていたその瞬間を。そして、よく夢に見ていた、子ども心に覚えていた、みんなが、親が、燃えていく様を。
……と、そんなことを言うが、別に僕は姉さんや教団を恨んでいたりはしていない。あの出来事がなければ僕はここにはいないし、姉さんにも会えなかった。姉さんだって、あの時はなにも知らなかったし、僕を救ってくれた。
教団には感謝はしないが、恨みもしない。姉さんには、感謝こそしても恨む理由など、なに一つないのだ。
ならなんで複雑な気持ちになるのか……それは正確に言うと、複雑な気持ちなのは僕よりも姉さんではないか、と思うからだ。
いままで、僕はそのことを忘れて、姉さんは僕の忘れていることを、覚えていたんだ。
自分は、自分の仲間が滅ぼした村の生き残りと一緒にくらいしている。でも、彼はそのことを知らない。……悪く言うわけじゃないけど、そんな状態で、姉さんはどう思いながら僕と一緒に過ごしてきたんだろうか……?
そう考えて、僕の気持ちも複雑なものとなってしまった。
はっきり言おう。僕は姉さんが好きだ。たぶん、僕の傲慢でなければ、姉さんも僕のことを好きでいてくれている。
でも、このままだと、大切なナニカが壊れてしまいそうな、そんな暗い予感がしている。
そのナニカはなんなのかがわからないが、なにか行動を起こさないといけない気がした。
だからまず、僕が昔のことを思い出したことを教えないと、と考えている。
でも、そのタイミングが掴めない。決意してから、もう五日も経ってしまった。

「あ、そうだ。姉さん」
「ん?なに?」

朝食を作り終え、テーブルに並べてあとは食べるだけ……というところで、僕は姉さんに一枚の手紙を渡す。

「姉さん宛に届いてたよ」
「そう。いったい誰からかしら……」

と、言いつつも、姉さんはどの関係であるかわかっているようで、少し顔色が暗くなっている。
宛先を見てみたんだけど、僕の知っている場所ではない。だからたぶん、教団関係者の誰かだろう。
……そういえば、教団関係者といえば、今病院に教団の天使が一人……姉さんの話では、同僚らしい……入院してるんだっけか。なんでも、教団の実験によって操られて、助けたのはいいけど、術の影響で意識が戻ってきていないらしい。いつか意識が戻れば、姉さんの友人ということで
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