六割

「……なにやってるのよ、ジン」

ローランに手を伸ばしていたジンの腕を掴んで私は彼を睨んでいる。しかし、彼の目はずっとローランのことしか見ておらず、また、その瞳には感情の色が見られなかった。
原因はわかりきってる。彼の首に出ている紫色の魔術式だ。
傀儡輪。術式を打ち込むことで対象の思考能力、意識を低下させ、術者の意のままに操ることができる魔術。
それを、ジンは打ち込まれていた。いや、もとから打ち込まれていたのかもしれない。あの術式は発動するまで効力がなく、発見しずらいものでもあるからだ。教団が裏切り防止のために打っていたとしても、おかしくはない。
まぁ、術式を打ち込んだのが前からでも、最近でも、打ち込んだのが教団側の人間、正確にいうなら、第四部隊の人間であることはまず間違いなかった。
ジンの言葉から、第四はどんな手でも使う、つまりはローランを人質に取る手を使うだろう予想は簡単に立つ。そして、忌まわしいこの術式を開発したのが、第四だ。
本当に忌まわしい、ローランの記憶がなくなったのと同時期に封印しようとして、結局は完全には忘れることができなかった記憶が、すべて思い出される。
活動が過激化した反乱分子である兵団を鎮圧するために行った、村が一つなくなった、あの悲劇。
溢れる感情は、罪悪感と怒り。
言い訳でしかないけれど、あの時は、あの子もいたし、ローランを守る必要もあったから、私は、逃げることしかできなかった。
でも、今は違う。守るべきローランがいても、それを狙うのは操られてるジンだけ。ならば、取るべき行動は一つだ。
私はジンの片腕を捻って余計な行動をさせないように体を回転させてから、蹴飛ばして校舎の外へ吹き飛ばした。

「……ライカ、ジンに三重でプロテスをかけてちょうだい」
「いいのかい、君じゃなくて彼にかけて」
「なにしようとしてるのかわかってるんでしょ。さっさとやってちょうだい」
「はいはい……」

ジンを校舎外に吹き飛ばした後で、ライカにジンの身体保護をお願いする。
そうでもしなければ、このあと私のやろうとしていることに、ジンの体が耐えられないからだ。
一度しか対峙してないが、それでも操られている者を止める方法は簡単に思いつく。
物理的に、操られてる者を行動不能にするのだ。
あの術式の操り方からしてその方法が効くことはわかっている。というか、第四のバカがあっさりと理屈を公開していたからわかりきっている。
あの術式は被操縦者の脳に干渉して操る。人形のように身体自体を操ってるわけではないため、操られている身体に異常が生じれば、その異常の影響をもろに受けるのだ。
しかし、問題がある。
今操られているジン、あいつは昨日戦ったみたいに三割でやったとしても行動不能には追い込めない。いやそれ以上だ。おそらく五割を持ってしても行動不能にはならないだろう。しかし、六割以上の攻撃をジンに当てれば十中八九ジンが死ぬ。嘘偽りなく、はっきりとわかってる事実として言える。
だからこその、身体保護だ。

「……よし、できたよ」
「ありがとう」

ライカが校舎外に出たジンに保護魔術をかけおえたことを教えてくれたため、私はお礼をいい、そのまま窓から外に出て、滞空しながらジンのいる位置を見る。
ジンはすでに吹き飛ばされた分のダメージを回復し、またこちらに向かって走ってきている。保護前だったからと体を心配していたのだが、安心した。いや、安心してはいけないか、これからさっき以上の攻撃を当てるのだから。
ジンの向かってきている方向、私が攻撃した時の位置などを予測しながら、私はここしばらく言ってなかった言葉を口にする。

「……“六割”、解放」

言葉を放つことによって、意識的に制限していた力を解放する。数年ぶりに本気と言える力を発生させて、身体中が軽く感じた。
さて、そしたらさっさと片付けますか、と私はつぶやきながらジンのいる方向を向いて、そして全力で飛ぶ。
……勝負は、一瞬で片付いた。


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「姉さんっ!?」

窓の外で滞空していた姉さんの姿が一瞬で消えてしまい、僕は動揺して走って窓際に寄って外を確認する。
姉さんの姿は、校庭の中央付近の、先ほど僕に向かって手を伸ばしてきた……たしか、姉さんはジン、って言ってたかな……その人と同じ場所にいた。その腕は、ジンさん…?…の腹のあたりに当たっていた。
僕は、その様子を見て背筋が凍ったような感覚に襲われる。
あの人には、姉さんが外に出る前にライカ先生が三重の物理障壁をかけていた。それが、全部破壊されて消えてる……
本来物理障壁魔術“プロテス”は持続力を持たせるために衝撃を拡散させて、ある程度保護対象にダメージが流れてしまうが、最低でも半分以上の威力は削れるよう
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