母が、死んだ。
数ヶ月前から病に伏していたが、その病が原因で、息を引き取った。
それから一ヶ月ほど、僕は活動を休止した。
幼くして父親を亡くした僕にとって、母は僕の何よりも大切な人だった。
大好きなものは、全部母からもらっていた。
そんな母が、いなくなってしまった。
僕は、できうる限り盛大な葬儀を執り行った。
たくさんの人が葬儀に参列したのを見て、僕は本当に母がいなくなってしまったんだと、認識せざるを得なかった。
……葬儀を終えてから二週間ほど、僕はただ生きている人形のようになっていた。
ただ食事をし、寝るだけの生活を送っていた。
そんな僕を見た友人が、僕のことを叱ってくれた。
そして僕は、母のために頑張って生きていくことを決めた。
タイミング良く、僕に演奏して欲しいというところがあったので、僕はそこで母のためのレクイエムを演奏して、そこから始めていこうと思った。
それが、悲劇の始まりだった。
演奏会当日、僕は一心不乱にピアノを弾いた。
弦を一つ打つたびに、楽しかった母との思い出が思いだされ、そして、そんな時間はもう過ごすことが出来ないのだと、思い知らされる。
何度も暗闇に飲み込まれそうになりながら、僕は必死にピアノを弾く。
この演奏が終わったら、今度は、母が残してくれたものを誰かに伝えていこう。
そう思いながら、僕は最後の曲を弾き終える。
音の余韻が消え、静寂だけがその場を支配する。
拍手の音は、ない。
……失敗、したかな?
そう思いながら僕は椅子から立ち上がり、観客席の方を見る。
……最初は、なにも気づかなかった。
少しして、なにかがおかしいと気がついた。
なにかがおかしいは、観客がピクリとも動かないことだった。
……観客席には、生者はひとりもいなかった。
××××××××××××××××××××××××××××××
「……そしてその惨状を見た僕の悲鳴を聞いて、警備をしていた騎士団の人たちが駆けつけて、怖くなって逃げ出して……そして追われるようになった。それが、僕がもうピアノを演奏できない理由で、教会に追われるようになった理由。そして、二年前に起きた大量殺人事件……“レクイエム事件”の概要です」
「………………」
「……そんなの、そんなの……ハーおにぃちゃんのせいじゃないよ!!」
話し終えると、メリカさんは黙り、アミリちゃんは僕を擁護する。
……でもねアミリちゃん、残念ながらその考えは簡単に崩せちゃうんだよ。
僕がそう思って説明しようとすると、メリカさんが、いや……とアミリちゃんの言葉を否定する。
「状況だけ見れば……いや聞けば、ハーラデス殿が原因であるとしか考えられんな、残念なことに……」
「なんで!?」
「場所はホールという狭い空間。その中で、殺人者が現れて人を殺したとしよう。誰にも気づかれずにホールの人間全員を殺せると思うか?……同様の理由で暗殺者という線もなしじゃ」
「それじゃあ……」
「“なにかたくさんの人が死んじゃうような術式を誰かが使ったんじゃないかな”、か?あながち間違えでもないが、それこそ無理じゃ。たしかにあるといえばあるが、それを使えばホール内など広くてもその効果は全域に及ぶ。つまり、術者以外は皆死ぬということになる。そして、あの事件の生き残りはハーラデス殿だけじゃから……」
「どちらにしても、まず僕が疑われるってことだね」
しかも、その状態で逃げちゃったんだから、もう犯人ですって言っちゃったのと同じだよね。
メリカさんの言葉を引き継いでそう説明すると、アミリちゃんは、でも、ハーおにぃちゃんは……と呟きながら、下にうつむいてしまった。
「しかし、状況的にハーラデス殿が犯人だとしても、わしはそれは事故のようなものだと思うんじゃが……というか、ピアノを弾いて人を殺す、などにわかに信じがたいしの」
「それでも、あそこには他に誰も生きていなかったし、侵入者がいたなら、警備をしていた人が気づく。扉以外から人は入れないですからね……だから、僕が犯人。そして、僕のピアノがみんなを殺した……」
「……腑に落ちんの……」
僕の言葉を聞いて、メリカさんは訝しげな顔をする。
「なぜ、お主は自分の演奏が人を殺したと断言できる?例えお主が人々を殺してしまったとしても、その原因がピアノだったとは思わないのではないか?」
「そうですね。一回だけなら、ピアノで人が死んじゃうなんて、思いませんでしたよ」
「一回だけなら……?まさか……!!」
「……ええ。事件は二回ありました」
僕がそう言うと、アミリちゃんはピクリと反応して、顔を上げる。
「……言い訳するわけじゃないですけど、やっぱり、原因がわからなかったですからね……お世話になってる村にピアノがあったから、弾かせてもらって、それで……」
「……なるほど、な。いや
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