ホットミルク

僕と美核の心が少しだけ通じあったあの日からだいたい一週間。
僕たちの距離は、目に見えて近づいていた。
と言っても、未だに恋人どうし、と言うわけではなく、とりあえず互いの気持ちが分かり合えてる、くらいのものだ。
恋人とはニアイコールでイコールじゃない関係。
それが今の僕たちだった。
そして、そんな僕たちはというと……

「空理注文〜、アッサムティー2つお願い」
「了解。マスター、アップルパイお願いします」
「……わかった」

……まぁ、いつも通りであった。
正直、互いの気持ちがわかってたところで、特段変わるようなことはない。
そもそも、毎日顔合わせてご飯を一緒に食べてるし、仕事も職場も同じだしね。
せいぜい、仕事時間外に一緒に出かけることが少しだけ増えたくらいだろうか?
ともかく、僕たちは特に大きく変わることもなくいつものように生活している。
行動面ではさほど変わっていないから目に見えて近づいてないじゃないかと思うだろうけど、互いの気持ちが通じ合い、変な遠慮がなくなったのだから、目に見えて近づいていている……と、思う。
そう、思いたいなぁ……
……ともかく、時間はお昼過ぎ。
喫茶店でお昼を食べる人たちもはけて来て、だんだん暇になってくる時間帯だ。
そして、そんな時間に入り口のチャイムが鳴って、新しいお客さんが入ってきたことを僕たちに伝えた。

「いらっしゃいま…せ……?」

お客さんを出迎えて、僕は一瞬言葉を止めてしまった。
白と黒が、お店にやってきた。
お客さんは二人。
一人は、黒い髪、黒い瞳、黒い服装といった、まさに漆黒を表したような男。
そしてもう一人は、白い長髪に赤い瞳、白い翼を持ち、男の方にあわせているのか、黒い服装をした、絶世の美女と言われる部類の女性。
店内のお客さんが、男女を問わず注目し、男性に関してはすでに魅了されているところを見ると、おそらく種族は……
…………リリム。

「お二人様でよろしいでしょうか?」
「ええ、そうよ」
「テーブル席とカウンター席がありますが、どちらにしますか?」
「テーブルでお願いします」
「かしこまりました。それでは、こちらにどうぞ」

とりあえず、人数確認をして、僕は二人を席に案内して、いつものようにその場を離れた。
魔王の娘がこの街にやってきた。
それは珍しいことだ。
まぁでも……

「……あれって、リリムよね、魔王の娘の?」
「うん、そうみたいだね」
「なにしにきたのかな?」
「さぁ?どうでもいいよ」
「え?」
「え?」

美核が少し驚いたような顔をしたので、僕は首をかしげる。
そう、どうでもいい。
リリムはよく考えれば魔王の娘という血統だけ違うサキュバスであるから、特段希少であるとは思わないし、僕は血統とかそういうのはどうでもいい人間だからそういうのも気にならない。正直アリスやナイトメアがきた方が興味を持つ。
そんなことを考えながらも、僕は美核から目を離して白黒の二人のお客さんを眺める。

「どうでもいいとか言いながらちゃっかり注目しちゃってるじゃないの」
「あ、いや違う違う。もうあの女性はリリムだってわかってるから種族に対する興味はもうないよ……ってそうじゃなくて、僕が興味をもったのは、男の方」
「男の方って、あの普通な感じの?」
「普通と言ったら僕もそうなんだけど……まぁうん、そうそう」
「でも、あの人って黒いだけだよね?」
「まぁ、美核からみたらそうだよね……」

そう言うと、今度は美核が首をかしげる。
そう、たしかに、知らない人が見れば、ただ黒いだけの人だろう。
でも、あの服は、この世界にいる、知っている人なら、興味を持つ。
あれはね……と、美核に説明しようとすると、奥から方丈君が出てきた。
そして、あの黒い男の人を見て、へぇと少し驚いた顔をした。

「珍しいですね、学生服を着てる人なんて」
「ガクセイフク?」
「まぁ、学校用の服だと思っていいよ」
「でも、ここのにはないよね?」
「うん、まぁあそこは私服登校だからね」
「そうなんだ……で結局、なにが珍しいの?」
「まぁとりあえず、あの服の材料は今の技術じゃ外の世界から輸入するしかないものなんだ。で、つまりは彼は僕と同じ、外の世界から迷い込んできた、または召喚された人ってこと」
「そうなんだぁ……」

なんかよくわかんないまま頷いている、と言った感じの美核を見て、これは説明してもあまり理解できないかな、と思っていつものようにお客さんに話しかけることにした。
まぁでも美核に言われる前に、仕事も行うわけだけどね。

「お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」
「あ、ええと……フィオナ、決まった?」
「あ、ちょ、ちょっと待って!なかなか決まらないの……うーん、ケーキもいいし、話ではパイも美味しいって……よし、決めた。チョコケー
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