人形遣いと若き竜・中

人形を追いかけていると、あの魔力を感じた。
吐き気がするくらい気持ちの悪い、祝福された、主神の息のかかった魔力。
そして、それと一緒に、懐かしい、久しぶりにあった彼女の魔力も感じる。
……また、繰り返すのかな?
だったら、また人形劇を開かないと。
僕のさみしさやかなしさを紛らわす、とびっきりタノシイ人形劇を。


××××××××××××××××××××××××××××××


「……はぁ……はぁ、くそっ」
「ふん。ドラゴンと言えども所詮魔物。神に仕える我らの敵ではないな」

侵入者に灸を据えようと戦っていた私は、逆に侵入者……教会直属の騎士団に押されていた。
数は約五十人。
内二十が巨大な盾を、十五人が大剣を、残りが杖を持っている。
爪や牙、ブレスなどの攻撃は全て盾によって防がれ、魔術を使おうにも魔術師の放つ魔術欺瞞魔術……マジックフレアのせいで当たらなくなってしまっている。
しかも、大剣くらい造作もなく弾き飛ばすほどの硬度を持つはずの私の鱗を、奴らの持っている大剣は易々と切り裂いてくる。
本来の姿に一度はなったものの、それが理由ですぐにダメージが溜まってしまい、人型に戻ってしまった。
そして今、私は騎士団の面子に囲まれている状態となった。
肩や腕、足などは傷ついていて、出血量が多く、まともに走ることは出来ない。
もう、ここまでか……
教会の人間は、例外なく魔物を全て殺す。
こいつらも、私を殺す為にここに来たのだろう。
……ああ、残念だ。
こんなところで、死ぬなんて……
……智也……
何故か私は、彼のことを思い浮かべてしまった。
昔、10年前に、彼が人形をくれた。

『見て見てナギ!僕、こんなにうまく人形つくったの初めてだよ!』

はしゃぎながら彼は私に人形を渡した。

『これ、ナギにあげるよ』
『え?なんで?一番の出来じゃないの?』
『うん。そうだよ。でも、だからこそ君にあげるんだ!僕がみんなと仲良くなれたの、ナギのおかげだから!ナギは僕の大事な人だから!』

そう言って、彼はまるで太陽のように笑ってたっけな……
全く、あんな笑顔を見せながらあんなこと言われたら……
…………ああ、そうか……
私は、あいつのことが好きだったのか。
だから、フィリが一番大切な宝物になったのか。
だから、彼女を返そうという言い訳をして彼に会おうと待っていたのか。
だから、渡したあと、心がすっきりしなかったのか。
だから今、彼のことを考えていたのか。
ははは……おかしいな……

「さて、もう抵抗は出来まい。死んでもらおうか」

そう言って騎士の一人が大剣を高く振り上げる。
死にたく、ないな……
また、会いたいな……
薄く涙を流しながら、私は上を見上げて小さな声で名を呼ぶ。

「……智也……!」
『駄目ぇぇぇぇぇぇ!』

ザシュッ!という音が響く。
しかし、振り下ろされた大剣は、私の体には届かなかった。
振り下ろす瞬間に、洞窟に入ってきた何者かが私と大剣の間に入り、一撃を受け止めたのだ。
いったい誰だろうと、私は間に入ってくれた者を見る。

「……え……?」

それは、見知った小さな影だった。
少女を模した布で出来た人形。
その布は剣に切り裂かれ、綿が飛び出し、マリオネットとして使うための木の骨組みが露出していた。

「フィリ……?なんで……お前……?」

私の宝物、フィリは、剣に切り裂かれてボロボロになっている。
そして、ふっ、と力尽きたように私の手元に落ちてきた。
そして、さらに現状に変化が起きる。

『はいはい、そこまで。全員動くな』

底冷えするような冷たい声が、洞窟の奥、ちょうどこの部屋の入り口付近から響いてきた。
底冷えするようなこの声はしかし、私は聞き覚えがある。
カツン、カツン、という音がこちらに向かって近づいて来る。

「何者d−−−−」

威嚇しようとした騎士団の一人が、“木製の人形の腕”に引っ張られて入り口に引き込まれてしまった。

『ひ……ひぁ!?な、なんだこいつ!?』
『ナァ蓮杖、コイツ殺シテモイイヨナ?』
『駄目だよヲード。人を殺しちゃいけない』
『デモ、コイツラハ僕ノ姉サンヲ殺シタ』
「駄目だって。これは命令。人は絶対に殺しちゃいけない」

遠くから会話をしながら、彼は、人形と一緒に現れた。
黒の短髪に、黒い瞳、まだ少し幼さを残す顔立ちをしていて、黒いコートに手袋をつけている彼は……

「智也……」
「ああ、よかった。無事でしたか」

傷だらけだけど、まだ倒れていない私を見て、智也は少しホッとしたように薄く微苦笑をした。
と、隣にいた人形が智也に話しかける。

『ナァナァ蓮杖、コイツダレダ?』
「この人はナギ。あの子の持ち主だよ」
『そうなのか』

そう言いながら人形はポイッと持っていた騎士団の人間を放り投げる。
その
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