クッキー

『……友達のところに泊まるから。……もう今日は、店に戻りたくない』

そう言って、美核は雨の中、どこかに行ってしまい、僕は店に戻ってマスターに美核は今日は帰ってこないと伝えてから、再び店の片付けをし、夕食を食べ、その日を終えた。
マスターは、なにも訊かないでいてくれた。美核が突然友人の家に泊りにいくなど、店主としては様々なことを問いただすべきであったにも関わらず、訊かないでいてくれた。
何かを、察してくれたのだろう。
その優しさが、とてもありがたかった。
そして夜が明け、そろそろ店が開くといった時間帯。僕は……

「……星村さん、大丈夫ですか?」
「…………うん、平気平気。なんとも……ないよ?」
「……嘘をつけ。顔色が悪いぞ」
「そんなこと……ないですよ……」
「絶対嘘です!尋常じゃないくらい……まるで死にかけの人みたいな顔をしてますよ!」

演技では誤魔化せないレベルで、弱っていた。
鏡で顔を 見てみたが、たしかに幽鬼のように顔が青かった。
立つのもやっとで、今にも倒れそうである。
マスターと方丈君が僕を止めるが、僕はそれでも仕事をしようとする。
……そうしないと、壊れてしまいそうだから。

「大丈夫だよ……出来る出来る。たしかに体調悪いけど、原因は精神的なものだから。肉体的には平気……」
「じゃありませんって!フラフラじゃないですか!無理ですよ、働くなんて!」
「……俺としても、お前が仕事が出来る状態だとは思えない。邪魔になるだけだから、休め」
「っ……わかりました……」

マスターにまで言われてしまったなら、仕方が無い。
マスターに迷惑はかけられないからな……
渋々と了承しながら、僕は自室へ戻ることにした。
……寝て、幾分か気持ちを楽になればいいんだけど……
そう思いながら、店の奥に行こうとしたその時だった。

「ほぉしぃむぅらぁ!!!!」

ダンッ!と大きな音を立てながら、聞き覚えのある声が僕の名前を叫んで呼んだ。
ああ、やっぱり来たか……
あの人は美核の味方だからなぁと嬉しく思いながらも、僕は足を止めて、店の入り口にいるその人のことを見る。

「……すまないが、今日は星村は体調が……」
「マスター、いいですよ。どうせ今のこの人に僕の体調は関係ないでしょうから。……ですよね、ルーフェさん?」
「当たり前よ!!あんたは、……あんたは!!」

入り口にいたのは、やはり、ルーフェさんだった。
マスターが止めようとしたが、僕がそれを遮る。
ルーフェさんは、場所をわきまえるだけの理性は残っているらしく、全てをぶちまけようとして、しかし我慢して今はなにもいわなかった。
……よかった。ここでやられたら、無理矢理にでも止めないといけなかったからね……

「……ルーフェさん、とりあえずは、場所を変えましょう。あとは、いくらでも好きにしていいですから……」
「…………わかったわ。ついて来なさい……」
「すみませんマスター。ちょっと、出かけてきます」
「……大丈夫なのか?」
「……さぁ、どうでしょうね?」

マスターの言葉に曖昧に答え、僕はルーフェさんと一緒に店を離れるのだった。


××××××××××××××××××××××××××××××


外でルーフェのことを待っていると、そんなにしない内に、彼女は星村と一緒に店を出てきた。
星村の顔は、なにがあったのか、蒼白だったけど、あまりそこは突っ込んで聞くべきではないと思い、なにも言わないでおく。

「ラキ、移動するわよ。ここじゃ邪魔になっちゃう」
「うん、了解」
「……ああ、ラキ、君もいたのかい。よかった」
「なにがよかったのかはわからないけど……まぁ、付き添いにね。今のルーフェの様子じゃ、やり過ぎちゃうだろうから……」

星村は、僕のことを見ると、少し安心したみたいな顔をした。
ルーフェは無言のまま、どこか……たぶん、自分の店だろうね……に向かった。

「……やっぱり、美核はルーフェさんのところに泊まったんだね」
「一応、どうしてこうなってるのかはわかってるんだね」
「うん。粗方予想は。美核がルーフェさんのところに泊まって、ルーフェさんが怒って、君と一緒に来た、とこんな感じでしょ?」
「まぁ、そんなとこだね」

夜に僕が二人分余計に夕食を作らされたことを追加すれば、大方正解だね。
まぁ、それは関係ないけど。

「……で、君はどうするつもりだい?謝る?土下座する?」
「わからないよ。ルーフェさんの要求次第。……でも、たぶんなにもしないだろうね」
「どういうこと?」
「……それよりも、ラキ、二つ頼みたいんだけどさ……」

星村は、僕の質問には答えずにはぐらかし、代わりに頼みごとをする。

「一つ目、もし僕になにかあったら、ルーフェさんのことを真っ先に守ってあげて」
「……そういうのは普通、
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