「あなたを、“浄化”します」
メシュエル・ラメステラ……エルは、そう言ってどこからか取り出した大鎌を構え、僕に振るう。
漆黒の刃が、僕に向かって大きく縦に振り下ろされた。
しかし、僕はそれを横に逸れてかわす。
「ごめんね、“ここ”で死にたくはないんだ」
「………………っ!」
続いて、返すように横に振られた鎌を、今度は後ろに跳んで避ける。
二年間、教団から逃れてきたんだ。
これくらいなら、なんとか避けることが出来る。
アミリちゃんがお風呂からあがったということは、昨日の通りならメリカさん達はたしかホールの掃除をしていたはずだ……
なら……
跳んでちょうど部屋の入り口から離れたので、僕は離れていたアミリちゃんの方を向いた。
「アミリちゃん、悪いけど、今夜は話せそうにないよ」
「おにぃ、ちゃん……?」
そう謝ってから、僕はこの施設の中の、特に強く印象に残った場所へ走り出す。
……メリカさん、ごめんなさい……
全力で走りながら、僕は心の中で、先に謝っておくのだった。
××××××××××××××××××××××××××××××
横に振り払う一撃を、ハー君は避けて部屋の外へ飛び出す。
そしてさらにどこかに向かうのか、何かを言ってからすぐに走り去った。
もちろん、私は彼を追うために、部屋の外へ出る。
と、視界の端に小さな女の子……魔女が入った。
「……っ!」
不意に浮かんでしまった余計な感情は捨てて、私は彼の去って行った方向へ走り出す。
しかし……
「……ファイアっ!」
ヒュボッ!と、後ろから私に向かって一直線に何かが飛んできたので、横に跳んで避けた。
飛んできたものを視認すると、それは火の玉であった。
危ないな……そう思いながら火の玉の飛んできた方向を見ると、そこには、先ほど視界の端にうつった魔女が、泣いているような、怒っているような顔をしてこちらを見ていた。
「……危ないわね、なにするのよ」
「おねぇさんは、ハーおにぃちゃんを傷つけようとしました……だから……」
そう溜めて、少女はキッ!と、私を睨んで、子供らしい……よく言えば優しい、悪く言えばぬるい……しかし、明確な敵意を、向けてきた。
「おねぇさんには、ハーおにぃちゃんは追わせないです!」
「……そう、邪魔、するんだ」
子供とはいえ、敵意を向けられた私は、いつ攻撃されてもいいように、臨戦体勢をとる。
私たちの周りの空気に、薄く、緊張が充満していく。
そんななか、私は彼女の気をそらすために口を開いた。
「ところで、君はいったいハー君のなんなのかな」
「アミィは……ハーおにぃちゃんのファンなのです!」
「ファン、か……こんなちっちゃい子にもいたんだ。すごいな、ハー君……」
「……おねぇさんは、ハーおにぃちゃんのなんなのですか」
「ん?ん〜、まぁ、友人……かな。でも、今は……敵、よっ!」
彼女の気を引くという目的を達成した私は、答えながら、私は後ろを向いて再び彼を追い始める。
今回の任務は対象の浄化だけ。
それ以外の、魔物の殲滅は請け負っていないから、彼女たちを相手にする気はない。
「ま、待つのです!いっちゃダメなのですっ!」
私の動きに気がついて、少女は慌てて追いかけ、また魔術を詠唱し、炎球や氷球、風や雷を飛ばし、足止めをしようとしてくる。
が、私はそれらを鎌でいなしたり、横に跳んだりして回避した。
たまに設置型の魔術を使い、火柱や氷柱を出したりしてくるが、それも簡単に回避する。
複数設置型の魔術を壁のように張れば足止めになるだろうけど、彼女はそれをしない。いや、たぶん、出来ないんだろう。
これなら、なんとか撒けそうね。
そう思った、その時だった。
「行っちゃ……駄目なのぉぉぉ!!」
少女が、駄々をこねるように叫んだあと、二つの炎球を放ってくる。
私は他の攻撃と同じように回避し、そして……
クッ、と、炎球が私のいる方向に進路を変えてきた。
「なっ!?く、ぅ……!!」
突然であることと、油断したこともあり、私は飛んできた炎球を回避できず、咄嗟に前に出した腕に当たってしまった。
足を止めてしまった私は、後ろに振り替える。
と、しっかりと私についてきていた少女が、追いついて立ち止まり、泣きそうな顔で私を睨んでいた。
「駄目なのぉ!おにぃちゃんのとこに行っちゃ駄目なのぉ!」
「……はぁ……仕方ない、か……」
いくら逃げても、彼女は諦めずに私を追ってくるだろう。
ただそれだけならよかったけど、さっきみたいに足止めされて、撒けないのは少々辛い。
出来れば、傷つけないように撒いてから彼のとこに行きたかったんだけどな……
そう思い、ため息をつきながらしかし、私は覚悟を決める。
「ハーおにぃちゃんのとこには、行っちゃ駄目なのです……!ハーおにぃちゃ
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