第五楽句〜楽しい時間は早く過ぎ去り、そして彼女が現れる〜

ハーモニアに戻り、メリカさんに魔晶石を渡したあと、僕とアミリちゃんは歌劇ホールの三階……僕達以外には誰もいない特別席に移動し、メリカさん達の歌劇が始まるのを待っていた。

「……で、やっぱりアミリちゃんは僕の膝の上に乗るのね……」

そして昨日と同じように、アミリちゃんは僕の膝の上に座ってきた。
いや、アミリちゃん、ちゃんと君の席は僕の隣にあるでしょう?

「うん!アミィの席はハーおにぃちゃんのお膝で決定なのです!ロリコンなハーおにぃちゃん大満足なのです!」
「まだそれ引きずってたの!?あと僕はロリコンじゃないよ!」

あと、まだ劇が始まったら大人しくしててね……
ツッコミをして乱れた息を整えてから、僕はアミリちゃんにそう注意する。
アミリちゃんもちゃんとそこはわきまえているのか、わかってるです!と答えてくれる。

「ハーおにぃちゃんがえっちなことをしてきても、アミィは大人しく受け入れるのです!」
「そういう意味じゃないよ!?あと、そういうことは誰に教えられたの!?女の子がそんなこと言っちゃダメだよ!」
「ハーおにぃちゃん、ここはサバトなんですよ?」
「それでもダメだよ。ちゃんと自分の体は大事にしないとね」

大人しくさせるために、僕はアミリちゃんの頭を撫でる。
撫でられると、アミリちゃんはえへへ〜、と猫のような感じに喜んだけど、なぜかはっとなってぷくりと頬を膨らませてしまった。

「は、ハーおにぃちゃんはアミィを子供扱いし過ぎです!」
「アミリちゃんは見た目も中身も子供だよ?」
「盲点でしたっ!!」

子供扱いもなにも、アミリちゃんは子供でしょ……
と、心の中でツッコミつつ指摘すると、アミリちゃんはガビンッ!といった感じで両手で頬を抑えた。
……と、まぁとりあえず騒げるのはここまでだね。

「アミリちゃん、そろそろ大人しくしようね。劇が始まるよ」
「はぁい!」

劇場の明かりが暗くなり始め、もうすぐ歌劇が始まることを観客の人達に伝えたのだ。
アミリちゃんは自分の席に戻る……ことはなく、そのまま僕の膝の上で大人しくなった。
いや、席には戻らないんだ……
いやまぁ、別に構わないんだけどさ……
いろいろと困ることはあるが、実害はないし、何よりアミリちゃんがとても嬉しそうな顔をしているため、僕はアミリちゃんを席に戻すことを諦め、劇を鑑賞することにした。
劇でやっているのは、音大という教育施設で学んでいるピアノについて学びながらも指揮者を目指している男と、同じくピアノを学ぶ女の笑いあり感動ありな話なのだが……
なの、だが……

「あれ?これのだめじゃね?」
「……?ハーおにぃちゃん、“のだめ”ってなんですか?」
「え?あ、いや……なんだろ?僕もわかんないや」
「じゃあなんでそんなことを言ったんですか?」
「なんでだろ?なんか劇を見てたら言わなきゃいけないような気がして……」
「変なおにぃちゃんですね」

あはは……まったくそうだね……とアミリちゃんに同意し、僕はまた大人しく劇を見る。

「ねぇ、ハーおにぃちゃん、やっぱり、ハーおにぃちゃんはピアノを弾かないのですか?」

主人公である男の人の練習が厳しく、もうやってられないと仲間が次々と練習部屋を出て行くシーンを見ていると、不意にアミリちゃんが口を開き、聞いてきた。
……やっぱり、ピアノを弾かないのか。
昨日から、アミリちゃんが何度も訊いてくることだ。
アミリちゃんには悪いけど、多分なにがあっても僕の答えは変わらない。
NOだ。

「……ごめんね」
「……そう、ですか……」
「……アミリちゃんは、なんで、そんなに僕のピアノを聴きたがるんだい?」

何度も訊いてきているので、ついに気になって僕はアミリちゃんに問う。
と、アミリちゃんは、うつむいて、しばらく、ううん……と悩んだあと、ポツリポツリと話し始めた。

「えと、ね……アミィは、ハーおにぃちゃんのピアノを聴きたいんだけど、ハーおにぃちゃんがピアノを弾いてる姿も見てみたいのです。……前聴いた時は、ハーおにぃちゃんの姿を、見れなかったから……」
「え……?」
「アミィはね、魔女になるまで、目が見えなかったんだ。たしか、せんてんせいのもうもくしょう、だっけかな……?それでね、魔女になればそれが治るかもってメリカおねぇちゃんたちが強く勧めてきたんだ。ええと、たしか……魔女って魔力が高いから、体が変化した時に治る可能性が高い、だっけかな……?」

……たしかに、魔女に変化すれば、体が組み変わるから、その過程で目が治る可能性が高い。
アミリちゃんの話を静かに聞きながら、僕はそう考える。
重い話だが、これでアミリちゃんが14歳という年齢で魔女になった理由がわかった。
しかし、それと僕のピアノが聴きたい理由と、どんな関係が……
そう思ったところで、
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