カステラ

年の終わりももう近く、現在は12月27日。
外の世界では年末大忙し!といった感じの時期なのだが、ここではそこまで忙しいということはない。
それでも、年末大安売り、というものをやっている店があるため、いつもに比べると、僕たちのいる喫茶店“アーネンエルベ”にやってくるお客さんは減っていた。

「……だからといって、お昼になってもお客さんが来ないなんて……ないよね……?」
「……ルーフェたちのお店も値下げしてるから、ありえるのが怖いわね……」

というか、私も買い物に行きたいわ……と呟きながら、僕の隣に座っている美核はため息をついた。
今現在午前10時45分。店の接客スペースには僕と美核しか居らず、マスターは愚か、お客さんすらいない。
このまま言った通りになったとしたら……
恐ろしいので、考えるのをやめる。
ちなみにマスターと方丈君は、奥でいろいろと教えたり教わったりしている。
僕たちが教えてもよかったんだけど、マスターが自分がやると言って聞かなかったから、任せることにした。
まぁ、僕も美核も感覚で仕事をしてるし、教え方っていうのもあまり上手くないから、マスターに教わるのが一番いいんだよね。

「にしても、自画自賛するみたいであれだけど、美味しいわね、コレ」
「まぁそりゃあ、向こうの世界でも普通に売れてたモノだからね」

そういいながら、美核が指でつまんで口に入れたそれは、端の部分が焦げ茶色で中は淡い黄色のスポンジ状のお菓子だ。
方丈君が、本格的にうちの仕事を始めた日……つまりは昨日、お客さんのいない暇な時間に、マスターから仕事を教わりながらポツリとつぶやいた、「そういえばこのお店って、カステラとかって売ってるんですか?」という予想だにしなかった一言から、喫茶店メンバーと、方丈君を回sy……迎えに来た嫁達を巻き込んで再現され、メニューに新しく加わった、僕や方丈君達の世界のお菓子がこれ……カステラだ。
お客さんが本当に来ないので、暇つぶしにと美核が作ったものを二人で食べているのだ。
ちなみに僕は端っこの方から食べる派である。
にしても、この世界は不安定だよなぁ……
割と最近とはいえ、電話や拳銃など、現代のモノが普及してきているのに、今回のカステラや、焼きそばパン、十徳ナイフなんかは全く知られていない。
……いや、十徳ナイフはともかくとして、少なくともカステラや焼きそばパンなんかは、知られていてもおかしくないはずだ。
やっぱり、どこか不安定だよなぁ……
なんて考えていると、チャイムが鳴ってお客さんがきたことを伝えた。

「いらっしゃいませ」

やっと仕事がきた!と内心嬉しく思いながら、僕は残っていたカステラを頬張って飲み込み、接客を始めた。
美核も仕事がきたので、水持ってくるために奥に行く。
お客さんは四人。全員女性だ。
一人は人間で、他の三人は全員魔物。
ミノタウロスに、ケンタウルス、それにリザードマンか……
戦闘に向いている編成の魔物だね……傭兵とか、そこらへんの仕事をしてるのかな?

「四名様ですね、カウンター席とテーブル席とがございますが、どちらにいたしましょう?」
「うーん、そうね……テーブルでお願いするわ」
「承知しました。では、お好きなテーブルでお待ちください」

テーブル席の方へ案内すると、代表であるらしい人間の女性が、ありがとう、とお礼を言ってくれた。
……さて、あとは美核がメニューと水を持ってくるのを待つだけか……
やっぱり人がいすぎると大変だけど、全くいなかったり少なすぎたりすると暇になるな……
なんて考えてると、美核がちゃんと水とメニューを持ってお客さんたちのとこへ行った。

「こちらメニューとなります。ご注文が決まりましたら、お呼びつけください。では、ごゆっくりとおくつろぎください」
「ありがとう」

美核はメニューを渡し終えると、僕と一緒にカウンターに座って待機しておく。
……別にそこまで大きなお店じゃないし、騒いだり迷惑なことさえしなければ、その場待機でも大丈夫だろう。
……にしても、あの女性、妙に見覚えがあるんだよな……
若葉を思わせる気緑色のストレートヘアーに、白いバンダナをつけていて、人間の女性にしては高い身長を持っている。
瞳には強い意志を感じさせ、戦う者としての風格も決して弱くはない。
うむむ、あったことはないはずだけど、なんで見覚えが……

「……どうしたの空理、じっとあの人を見て?」
「え?あ、うーん、なんかあの人、見覚えがあるきがするんだよね……あったことないのに……」
「そしたら、なにかに似てるとか?」
「そうかもね……うーん、でも、なんだろう……」

人としてあっていない……なら、物、だよな……
でも、人型の物なんてそんなにない……というかマネキンぐらいしか思い浮かばないから、やっぱり本
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