エスプレッソ

12月24日。
クリスマスイブ。
恋人達は甘い時間を過ごし、家族は暖かな時間を過ごす、そんな日。
喫茶店“アーネンエルベ”は、店を休みにしていた。
……いや、正確には違う。
いつもなら、OpenかClosedの看板がかかっているのだが、今日、店の扉にかけられている看板は、そのどちらでもない。
本日貸し切り。
そう、看板には書かれていた。


××××××××××××××××××××××××××××××


……夢を見た。
昔の、幸せな夢だった。
幸せな夢だったけど……
もう手に入らない幸せは、毒と一緒だ。

「……ん……あ……?」

変な声を出しながら、僕は目を冷ました。
まだ起きたてでぼやけた視界には、見覚えのある茶色いカウンターが度アップで映っていた。
顔の右側に硬い感触がする。
ジンジンと痛みを感じてきたので、顔をあげてみると……

「あ、空理、おはよう」
「……ん、ぉはょう……」

クリスマス用に飾り付けられた店内で、美核が僕の、二つ隣の席に座っていた。
ああ、そうだ。昨日はパーティー用に飾り付けをしてたんだった……
徹夜でやって、それでそのまま……“薬”も飲まずに……
そっか。だからあんな夢をみちゃったのか。
というか……

「もしかして、もう朝なの……?」
「うん。まだ七時くらいだけどね。……たぶん、飾り付け終わったら疲れちゃって、そのまま寝ちゃったんじゃないの?」
「そっか…………ん?」

とりあえず、起きないとな、と思って立ち上がると、パサッ、と背中から何かがずり落ちた音がしたので、足元をみてみると、そこには、僕にかけられたと思われる毛布が落ちていた。

「あ、毛布……もしかして、美核が?……ありがとね」
「うん、まぁ、グッスリ眠ってたから、風邪引いちゃったら大変だなって、ね」

あははは……と少し恥ずかしそうに笑ったあと、誤魔化すためか、すこし強引に美核は話題を変えてきた。

「そ、そういえばさ!領主様に頼んだ招待状の件、大丈夫かな?」
「ん〜、たぶん大丈夫でしょ?あいつ、最速の郵便屋に任せたそうだし、もう街中の知り合いには届いているでしょ。問題は……あの子達がくるかどうかだね」
「あの子達って言うと、あの、ハロウィンの時の?」
「うん、あの二人。場所聞いたらかなりの遠いとこらしいし、手紙届いたとしても、来れるかどうか……」
「来てくれると嬉しいんだけどね……」
「ああ、その点なら心配ないよ」
「っ!?っ!??」

招待状を送った、唯一街にはいない知り合いのことを心配していると、とても自然な感じでライカが会話に参加してきたので、美核は声にならないくらいに驚いていた。
突然現れたように見えたがしかし、僕は驚かなかった。
どうせ、音を立てないように扉を開けて侵入したか、もっと別の何かを使ったんだろう。
例えば、お得意の魔法とか、ね……
まぁ、それはともかく。

「……彼女達がくるかどうかの心配がないって、どうしてなんだよ?」
「あれ、驚かないのか……残念だ……」
「お前が休日だとどこにでも現れるのは、もうこの街の常識だ」
「いや、それでもいきなり出てくるのはビックリするでしょ……」
「いや、美核、君はこいつの奥さんを見てないからそんなことが言えるんだ」
「星村、話題にしないでくれ……あいつが出てきそうだから……」
「ん?呼んだ、あなた?」
「「っ!?っ!??っ!!?」」

ライカが話題にするなと言った瞬間、神奈さんが現れ、ピョコンとライカの背中に抱きついてきたので美核とライカが、もう恐怖と同じくらいに驚いていた。
……下手したら悲鳴をあげそうだな……
ちなみに僕は突然現れる神奈さんをよく見ていて慣れているため、特に大げさな反応はしない。
まぁ、この人はあれだ。
常時ギャグ補正。
そんな言葉が似合う人だ。

「神奈さん、おはようございます。で、話を続けていいですか?」
「あ、うん。いいよ〜。ごめんねぇ、邪魔しちゃって」
「いえ、大丈夫です……で、ライカ。結局彼女達が来るか来ないかの心配がないって、どうゆうことなんだ?」
「あ、ああ。そうだったね。なに、簡単なことさ。僕達が直接会いにいくだけだよ」
「……ああ、なるほどね」

ライカの言葉に、僕は納得する。
確かに、ライカ……というか、神奈さんのアレなら、確実に時間に間に合うように彼女達を迎えにいける。
……僕の魔法の完全上位互換だしな……

「と、いうこと、このあと僕達は彼女達に確認しにいくんだけど、なにか他に迎えに行って欲しい人とかはいるかい?」
「うーん、とりあえずはないかな?基本的に知り合いは街に集中してるしね」
「ん、そっか。じゃあ、僕達はもう行くね。……今日の仕事もあるから……」
「はいはい。ちゃんとパーティーには来いよ?神奈さんに搾り取られて来れませんで
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