……それは、だいたい一年前くらいの、雪の降っていた日のことだった。
寒い寒いと思いながらも、いつものように、僕は開店準備をマスターと一緒に始めていて、テーブルを拭こうとしていた。
「……いや、やっぱり寒い。マスター!ストーブつけていいですか〜!?」
「……ああ!部屋温めとけ!!」
どうやら厨房にいたマスターも寒いと感じたらしく、あっさりと許可をもらえた。
僕の世界とは違って、魔力によって起動するストーブに点火しながら、僕は窓から外を見る。
窓の向こうでは、真っ白な、大きな結晶がしんしんと降っていた。
……雪かぁ、どうりで寒いわけだ。
しかもこれ、積もるタイプの雪じゃん……
てか、もう積もりかけてるし……
あー、明日止んだら屋根の雪かきとかしないとなぁ……
じんわりと暖かくなってくる部屋で、そんなことを考えていると……
……とさっ……
「……ん?」
まるで何か重いものを布団の上に落としたかのような音を、僕は聞いた。
店内を見回してみるけど、何か落ちた様子はない。
カウンター裏なんかも確認してみる。……異常なし。
そしたら二階かな、と思ったけど、それはないと思った。
そもそも、音の発生源が違う方向だったからだ。
となると……外かな?
そう思って、僕は扉を開けて、少しだけ周りを見渡してみる。
……そして扉のすぐ目の前で、女性が倒れているのを発見した。
「あー、これはマズいな……」
服はボロボロで薄いし、体もそこかしこに軽い打撲跡や切り傷なんかもある。
まぁ、十中八九、どこかから逃げてきたんだろうな……
ともかく、このままだと、凍傷になったりして危険だ。
そう思い、僕は倒れた女性を抱えて店のなかに運び、ストーブの前に横たえる。
「マスター!大変です!女性が倒れてました〜!!」
「なんだ……?ふむ、わかった、じゃあちょっとこっちに持ってこい。ストーブもだ。……少し厄介なことになるぞ……」
「あ、はい。わかりました」
厨房から出てきて、女性の様子を見たマスターは、すぐに指示を出してきて、僕はそれに従う。
まずは女性から奥の厨房へ運び、椅子を組み合わせて簡易ベットのようにして、そこに寝かせる。
次に、折角暖まったストーブを一旦消してから、厨房に運び、また点ける。
そして、嫌な予感がした為、念の為の準備をしておく。
部屋に戻り、ある本を取り出して持っていく。
……“メモ”は……まぁ、下に降りて時間があったらだな。
「……ってるんだ」
「……らんと言ってるだろうが」
下に降りると、店の方からなにやら声が聞こえてきた。
片方は、聞き覚えのない、冷めたような男の声。
それに答えているもう片方は、マスターの声だ。
「マスター、どうかしたんで……って、誰ですか、その人達は?」
店の方へ向かうと、店の扉付近で、大柄な男が二人、マスターと話しているところだった。
「ああ、なんでも人探しをしているようだが、星村、お前誰か見たか?」
「……いいえ?誰も見てませんが……」
人探し。
そう聞いて、僕は真っ先に彼女のことを思い浮かべた。
なので、僕は自然に嘘をつく。
彼女のあの様子に、この男達の風貌……
黒い帽子に、顔が隠れる程襟を高くしてあるコート。
どう見たって、まともなやつじゃあない。
マスターの言っていた厄介なことの意味をやっと理解し、僕は本を少し開いて“使って”おき、すぐに床においておく。
「……嘘をつくな。店の前に倒れた跡があった。この店以外あいつのいる場所はいない!」
「……だから、知らんものは知らんと言ってるだろう……」
「まったく、強情なやつだ……」
そう言って、二人はポケットから黒光りする鉄塊を取り出してきた。
「っ!?」
「……なんだ、これは……?」
「……まさか、この世界にもうコレがあるなんてね……!?」
「……ほう、これがなにか知ってるのか」
英語では、ピストル。日本語では、拳銃。
それを、この男達は手に持ち、銃口をこちらに向けてきた。
……まさか、魔法特化のこの世界で、こんなものを見るなんてね……
「……ならば話は早い。死にたくなければ、あいつを寄越せ。あいつは……大切な“商品”だ」
商品……なるほど、奴隷商か……
拳銃を突きつけられながらも、僕は冷静に思考する。
相手は男二人。
身長は……僕よりちょっと高いくらいかな?
拳銃を突きつけられてるから、下手には動けない。
でも、様子を見るとあんまし使い慣れてない感はある。
まぁ、素人目だから確証はないけど……
となると、動いたら二人ともその動いた方に拳銃を向けると思う。
幸い、マスターはあれがなんだかわからないけど、死にたくなければ、と聞いてから警戒して動かないでいてくれる。
そしたら、あとはどうするか……
なんというか、備えあれば憂いなしというけ
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