第三章「大蛇の洞窟」

「ここが……そうなの?」
「うむ。“大蛇の洞窟”じゃ。……あとルシア、お主、また名前を忘れておったの?」
「たはははは…………」

アーシェと出会って6日目。僕達は、“大蛇の洞窟”に到着することが出来た。
しかし、あまりここがダンジョンである、という実感は湧かないな…………
何せ、見た目が普通の洞窟だからなぁ…………
大層な入り口もなければ、入り口を守護する魔物もいない。
はたから見れば、ただの洞窟にしか見えない。
しかし、アーシェの言う通りなら、ここはアーシェの知り合いである“エキドナ”さんのいる洞窟であるらしい。
……まぁ、普通の洞窟だと油断させて、強力な魔物達が襲いかかってくる、という風に考えれば、上手いカモフラージュ、と言えるだろう。
というか…………

「やっぱりバフォメットだからか、アーシェって結構凄い種族と知り合ってるんだね…………」
「む…………それは皮肉かの?」
「いや、やっぱりバフォメットは凄いんだなぁ、って思っただけ」

と、そんな感じに入り口前で話していると…………

「あれ? もしかして、アーシェ様ですか?」

洞窟から、一人の女性が現れた。
女性、といっても人ではなく、下半身が蛇になっている…………

「ええと……たしか……なんだっけ?」
「ラミア種、さらに言うならラミアそのものじゃ」
「お久しぶりです、アーシェ様!!」
「うむ、元気そうでなによりじゃな、二ティカ……ってのぉ!?」

二ティカと呼ばれたラミアさんは、素早くアーシェに近づいて抱きしめた。

「ちょっ、二ティカ!? やめい!! やめんか!?」
「ああ、やっぱりアーシェ様可愛いですぅ…………」

二ティカさんは、猫のような顔をしながら、スリスリとアーシェに頬擦りまでしている。……蛇種なのに……

「ってあれ? あなたは……誰ですか?」

ふと、気がついたように二ティカさんが僕の方を見た。

「ええと……僕はルシア。ちょっとした理由でアーシェに同行してるんだ」

…………正確には、アーシェが同行してるんだけど、そこは訂正しなくてもいいや……

「そうなんですか……あ、私は二ティカと言います。ここ、“大蛇の洞窟”の見回り係をしています」
「よろしく、二ティカさん」
「はい、よろしくお願いします」
「というか二ティカ、早く離すのじゃ!!」

二ティカさんが頬擦りをしながら会釈するという荒技をやっていると、アーシェがもう我慢できないようで、腕の中で暴れ出した。

「うぅ、分かりました……ところで、いったいここになんの用ですか?」
「ん? ああ、ちょっとラナに訊きたいことがあっての、案内してもらえんかの?」
「分かりました。では、ついて来てください」

アーシェが来たことがよほど嬉しかったのか、ニコニコしながら二ティカさんは案内してくれた。
にしても、流石と言うべきなのだろうか、洞窟の中はかなり複雑になっていた。
洞窟の特徴である暗さは、途中途中にある松明のせいで効果を発揮していないが、それを補う程に沢山の分岐点がここにはあった。
2つ3つはもちろん、僕が見た最大で、7つもあった。
しかも、そのどれもが“誰かの住処”につながっているらしい。
いったいどれだけ住んでいるんだよ…………
そんなことを考えながら歩いていると、たまに男の悲鳴と女の嬌声が聞こえてきたような気がした。
二ティカさん曰く、それなりに冒険者が立ち寄るらしい。
恐るべきは入ったら出てこれないであろうこの洞窟か、それともそれに住まう無数の魔物達か…………

「さ、着きましたよ」
「ありがとう」
「ご苦労じゃったな、二ティカ」
「いえいえ〜」

二ティカさんは案内が終わるとすぐにどこかへ行ってしまった。
たぶん、本人の言っていた見回りでもしに行ったにだろう。
………………あ、帰る時はどうするんだろう…………

「あら? アーシェ? 久しぶりね」
「うむ、元気そうでなによりじゃ、ラナ」

部屋に入ってすぐ、二人はそう挨拶を交わした。
挨拶を交わした片方、部屋にいたラナと呼ばれた女性は……なんと言うか、綺麗だった。
少し目がキツめだが、全体的に整っている顔。
どんな男でも魅了出来そうな豊満だが締まった体。
そして、下半身が蛇になっているところが、彼女がラミア種であることを物語っている。
しかし、アーシェの話なら、彼女はただのラミア種ではない。
“エキドナ”
別称で“魔物の母”とも呼ばれ、非常に高い魔力を持ち、人に化けることも可能である。
…………と、こんな感じだろうか?
そういえば彼女、ラナと呼ばれていたな……………………

「……で、ラナ。調子はどうかの?」
「…………見ての通り、誰もここにたどり着きやしないわ。あなたはどうなの?」
「わしもじゃ…………」
「やっぱり、婿探しも大変なのね…
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