パンプキンパイ

10月31日。
ラインの人々にとって、それは楽しい楽しいハロウィンの日だ。
しかし、今年のハロウィンだけは、僕達にとって戦争に等しかった。

「はい!ただいまパンプキンパイ15枚焼けました!お待ちのお客様15名様どうぞぉ!」

喫茶店『アーネンエルベ』
今日は、リースさんの提案でパンプキンパイの持ち帰り販売をしている。
店内は従業員が僕、美核、マスターの三人しかいないため、戦争のようにあわだたしい。
持ち帰りのお客さんが多いため、美核はパイを焼くのに専念し、代わりにマスターと僕は接客、調理なんかをしている。
ちなみに僕は少しだけパイの宣伝をしてたりもする。
しかし、今日は客が次々と来るなぁ……
口コミで広がって行って新しいお客さんがここに来ているのか、お客さんにどんどんパイを渡しても、全くと言っていいほど待っているお客さんの量が減ってない。
むしろ増えてるんじゃないか?
やっぱり、今日は大勢の人がお休みだからこんなに来ているのかなぁ?
うちって、こんなに人気あったんだなぁ……
接客と会計をしてお客さんをはけさせながら、僕は嬉しくてつい頬笑んでしまう。
しかし、同時に懸念もする。
材料、足りるかなぁ……?
まぁ、ここはそこそこ人気だから、材料切れを起こさないように今日用に大量に材料を仕入れといたけど、この様子だと閉店まで持つかどうか心配だ。
なんて、そんなことを考えていると

からんからん……

「いらっしゃいませ。一名様でしょうか?」

店にまた新しいお客さんが来た。
髪の色は青紫で短髪。前髪が少し長めで左に寄せられていて、左目が隠れるようになっている。
…………あ!キタローヘアだ!?
顔は……まぁ、可愛らしい感じだけど、一応は男だとわかるような感じ。
年は僕より歳下、だいたい16〜18ってところかな?
服装はラフで動きやすそうな感じ。
体つきは細身ってところか。

「あ、あの、ここって今何を売ってるんですか?」

どうやら、周りの人がここから何か買って出て行くのを見て、気になってここに来たらしい。

「今日は、ここでパンプキンパイの持ち帰り販売をしてます。美味しいので、お一つ、買って行ってはどうでしょうか?」
「うーん……そうだな……二人に買っていってあげよっか……」
「二人……奥さんと娘さんですか?」
「いやいや、違いますよ。そんなこと言ったら二人に殺されちゃいます。二人は……なんというか、同居人、って言うのが正しいですかね?」

同居人か……と言うことは、男の人かな?
まぁ、ともかく、だ。

「そうなんですか……あ、何かパイ以外にご注文はありますか?」
「いや、いいよ。僕はこれ買ったら帰るつもりだから」
「そうですか」
「にしても、ここはあまり変わりませんね」
「……おや?昔に来たことがあるんですか?」
「はい。数年前、旅に出る前に来たのが最後でしたね……旅で数年街を出てましたが、昔からこの街に住んでたんですよ、僕」
「そうなんですか。僕は二年前にここに来たんで、会うことはなかったんですね」
「ですね。あ、僕ルシアって言います」
「どうも。僕は空理。よろしく」

キョロキョロと、僕は周りを見る。
うん。どうやら少しの間は話せるようだ。
ので、少しこの人に興味湧いたし、話すことにした。
と、同時に僕の口調は砕けたものになる。

「そういえば、なんで旅に?」
「いきなり砕けた口調になりましたね……ええと、旅の理由ですか……まぁ、ちょっと彼女が飛ばされてしまいましてね……」
「まぁ、今は仕事してないからね。へぇ、彼女がいるんだ……って、飛ばされた!?なんじゃそりゃ……」
「まぁ、いろいろとあった、と解釈してもらえば大丈夫です。で、いろいろとあったのを解決して彼女と街に戻れて今に至るわけです」
「ふぅん……そっか。いいね、彼女がいるって」
「……?いないんですか?彼女」
「うーん……どうだろ?あいつは彼女って言うより、家族って言った方がしっくりくるんだよな……」
「好きな人はいるんですね」
「うぅん……ノーコメントかな?あ、気になったんだけど、ルシア君はいったいどんな仕事をしているのかな?」
「話を逸らしましたね。えと、僕は一応ギルドに所属してます」
「ギルド?君が?……もしかして、魔術師だったりする?」
「いえ。……昔は魔法使いでしたが、今は全く魔法が使えなくなってしまいました」
「ふむ。魔法使い、しかももう使えなくなってしまった、か。珍しいね?でも、もう使えないってことは、自分の身はあまり守れないよね?じゃあ、ギルドではどんな仕事をしてるんだい?」
「うーん、なんて言えばいいんでしょう……マッピング……ですかね?」
「マッピング……ああ、地図を作成してるのか」
「はい。洞窟などのダンジョンや、地域一帯の地図を作成、複製して、
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