リースに着いて行って、到着したのは、この店の二階に位置する部屋の一つ。
彼女の部屋らしい。
「……この店は、部屋まで貸しているのか?」
「ええまぁ、そんな感じね。とにかく、立ったままだとあれだから、入って」
「……わかった」
促されて、俺は彼女の部屋に入る。
見た感じは、普通だ。
テーブルにベットにソファ。
特に何か不思議なものはない。
……少しだけ、安心した。
「……?どうかしたの?」
「……いや、存外普通な部屋で安心しただけだ」
「……いったい、どんな部屋を想像していたのかしら?」
「……魔女の部屋だからな。何かの実験器具なんかがあると思った」
「失礼ね。こんな場所で実験なんてしないわよ。第一、失敗して部屋が吹っ飛んだら隣……はどうせ星村だからいいとして、私が大変なのよ。マスターに迷惑がかかるし」
「……隣のやつはいいんだな……」
よほど嫌いなのか、それくらいやっても大丈夫なくらい仲がいいのか……
まぁそれはともかく、だ。
「……そろそろ依頼について話した方がいいと思うんだが……」
「そうね。じゃあそこらに座ってくつろいでくれて構わないわよ」
「……分かった」
許可をもらえたので俺は遠慮せずに床に座る。
と、リースが、別にソファでも良いのに、と呟いていたが、流石に一つしかないソファに俺が座るわけにはいかない。
それに、リースがソファに座っているため、俺までソファに座ってしまったら話しづらいしな。
「まぁいっか。じゃあ、まず詳しい依頼内容から話した方がいいわね」
「……そうしてもらうと助かる」
「そうね。……私の依頼はギルドにあった通り護衛よ。ただし、場所がちょっと問題ね」
「……危険な場所なのか?」
「それもあるけど……特殊、って言った方が正しいかしら?……モイライ神殿って知ってる?」
「……ああ。隣国の“テメングニル”にある神殿だな。……なるほど。たしかにあそこは危険だし特殊でもあるな。」
『モイライ神殿』
隣国の反魔物領である国、“テメングニル”にある神殿で、様々なものの過去を保管してあると言われている場所だ。
そもそもあそこは反魔物領にあるし、教会が管理している。人間である俺は大丈夫だが、魔女であるリースは危険だ。
しかも、そこにはある噂がある。
曰く……
「“そこでは自分自身の過去と遭遇する”……その噂を使って少し知りたいことがあるのよ」
「……そのための、護衛か」
「そういうこと。一応見つからないで調べることも可能だけど、見つかって教会の騎士団に囲まれたりでもしたら死んじゃうから、念には念を入れて護衛の依頼をしたの。まぁ、報酬とか依頼内容とかはちょっとした悪戯ね。反魔物領に喧嘩売るようなもんだし。来なかったら来なかったで私だけで行けば良かったし。……でも、あなたが来てくれて助かったわ。これですぐにでも出発することが出来る」
「しかし、そうまでして知りたいことというのはどういうものなんだ?支障が出ないのなら教えてくれないか?」
「……知りたいのは、薬の調合方法よ」
「……薬?なぜそんなものを……?しかも、見たいのはお前の過去なんだろう?なぜモイライ神殿まで行って見てくる必要がある?」
「それは……。……?……ちょっと待って」
答えるのを逡巡した彼女はふと何かに気がついたように部屋の扉の前に音を立てずに忍び寄り、そしていきなり扉を開いた。
「……あ、ど、どうもリースさん。どうしたんですかそんなに突然扉を開けたりして……?」
扉に先から現れたのは、俺が店に入った時に応対した店員だった。
「……一体、どこから聞いていたのかしら、星村?」
彼が少し慌てたように言うと、リースはニッコリと怖い笑みを浮かべながら訊いたのだった。
「……え?一体なんの……」
「とぼけないで。コーヒー、若干冷めてるわよ?」
「……あ……!」
リースの指摘に星村と呼ばれた店員は、いやはは……と苦笑いをしながら頬をポリポリとかいた。
たしかに、彼の持っているトレーには、俺とリースが頼んだであろうコーヒー……と、なぜかクッキーまであった。
「……で、どこまでかしら?」
「いや……あの……“モイライ神殿って知ってる?”ってとこからです……」
「……まぁいいわ。そんなたいした内容じゃないし……でも、黙って立ち聞きは、ちょっといただけないわね」
「はい。ごめんなさい……」
「ほら、さっさとそれよこして仕事に戻りなさい。まったく、本当に覗き見好きなんだから……」
「いやはや面目ない。それでは、失礼します」
リースにトレーを渡し、ごめんなさいねー、と俺にも謝りながら店員はその場を離れて行った。
「……今のは?」
「星村 空理。この店のバイトで野次馬覗き見盗み聞きが大好きなこの部屋のお隣さんよ」
「……なるほど」
たしかに、あ
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