第八章「別れの時」

…………目覚めると、見覚えのある、しかし見慣れてはいない天井……洞窟の岩肌を、僕は見ていた。
ここは……たしか…………そう、”大蛇の洞窟”という名前だったはずだ……
…………何のひねりもない名前だなぁ…………
なんとなくそんなことを考えながら、上半身を起こす。
と、そこで僕は隣にフィスが寝ていたことに気がついた。
すぅ……すぅ……と、穏やかな寝息が聞こえてくる。
昨日のような大人びたところは微塵もない、見た目相応の、可愛らしい寝顔だった。
よく寝てるし、起こしてちゃ悪いから、僕はフィスを起こさないようにゆっくりと部屋を出た。
部屋の外は、広い大空洞となっていて、僕はその大きさにほぅ、とため息をついた。

「あら?ルシア君。おはよう」

声をかけられたのでその方向を見ると、ラナさんがこちらに向かってきていた。

「ああ、ラナさん。おはようございます」
「もう体の方は大丈夫そうね。…………昨日は、お楽しみだったようだし……」
「!?」

なんで知ってるんだ?
フィスはちゃんとラナさんが去るのを確認していたし…………
もしかして………………

「…………戻ってきてたんですか?」
「……まさか本当にヤッてるとは…………よく半月も寝たままだったのに動けたわね…………」
「……?違うんですか?」

飽きれたように言うラナさんを見たところ、どうやら違ったようだ。
ラナさんは、僕の顔を指差し、答えた。

「あなたの顔。かなり疲れたような感じがするわよ?……それも、夜ずっと寝てないような、ね……」
「ああ、なるほど…………そんなに疲れて見えましたか…………それなら、戻っていなくても分かりますね…………」
「まぁ、そう言うことよ。…………と言っても、誰かさんは…………クスクス…………」
「…………?誰かさん?」
「あ、いや、こっちの話よ。気にしないで。あ、そうだ。朝食持ってきたんだった。フィスちゃんと一緒に食べよ?」
「あ、はい。いただきます」

見ると、ラナさんの腕には、パンやら何やらが入った大きめのバスケットがあった。
僕は快くラナさんを部屋に入れた。
…………そして、部屋の中には、ふてくされているフィスがいた。

「………………………………」
「ああ、フィス。おはよう。起きたんだね」
「朝食、持ってきたんだけど…………って、どうしたの?そんな顔して」
「………………なんで、起こしてくれなかったの?」

恨めしそうに僕のことを睨みながら、フィスは言う。

「いや、気持ち良さそうに寝てたから、起こしたら悪いな、と思って」
「………………また、気付かないうちに飛んじゃったって思っちゃったじゃない………………」
「………………………………」

そう言ったフィスの目から、涙が流れていた。
そうだった…………
また会えたことに浮かれていた…………
フィスは……いついなくなってしまってもおかしくないのだ…………

「………………ごめん、フィス…………浮かれてた…………」
「…………もういいわよ……ちゃんとここに居たんだから………………。…………それよりも!!」

涙を拭い、ふてくされた顔に戻ったフィスは、ベットから降りて僕に詰め寄ってきた。
いったいなんだろう、と考えていると、フィスはラナさんのことを指差して…………

「なんで、私のこと置いてってラナさんと一緒にいるわけ!?」

…………なんだ。いつもの嫉妬か…………
少し安心しながら、僕は苦笑する。
もしかしたら、何か嫌われることでもしてしまったんではないかと心配したのだ。
そして、嫉妬してくれることを少しだけ嬉しく思いながら、僕はフィスを安心させるように答えた。

「いや、フィスを起こさないように部屋を出たらラナさんがちょうど良く朝食を持ってきてくれてね。折角だから三人で食べようってことになったんだよ」
「…………ふぅん……本当かしら…………?」
「本当よ。ルシア君が出てきたの、さっきだったしね…………」
「………………一応、信じるわ…………」

じぃ〜っとフィスはラナさんのことを見ていたが、諦めたように椅子を並べ始めた。

「あ、そうだ。もう一人呼んでもいいかしら?」
「…………もしかして、アーシェ?」

用意し始めると、不意にラナさんが提案をしてきた。
それを見て、フィスは少しだけ嫌そうな顔をしたのを僕は見逃さなかった。

「……?フィスって、アーシェさんのこと嫌いなの?」
「………………嫌い……じゃないけど……なんか、嫌な感じがするの…………なんというか、女の勘?」
「ふぅん…………そうなんだ…………」
「…………で、呼んでもいいかしら?」
「…………いいよ。呼んでも。ルー君がお世話になったそうだしね……」
「あはは……僕は覚えてないんだけどね…………」

ということで、アーシェさんを交えた4
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