暗く、外を出る人も減ってきた夜の街を、僕は走る。
行き先は明確だ。美核の簪が落ちていたあの場所、美核が攫われたであろう現場だ。
とりあえず、街を出るまでだ。
人の目がなくなるまで、我慢しろ。
そう自分に言い聞かせながら、僕は周囲にいる人に気づかれないよう、小さな本を自分に手元に作り出す。
予定ではまだあと一日ここに滞在するんだ。ここで目立っていろいろと面倒になるのはよろしくない。
……でも、人の目がなくなったなら……
そう考えてまもなく、僕は街を出た。
即座に周囲に人がいないか確認してから、次に本から自分の求めている項目を“抜き出し”て魔法を発動する。
「再現“痛覚遮断”、“魔法・ヘルメス”」
本から切り離された文章はそのまま僕の体にまとわりつき、そして溶けるようにして消えた。
同時に、本来僕の魔法の副作用でおこるはずの頭痛がまったくなくなった。いや、というより痛覚が反応しなくなって“痛み”がわからなくなっただけだけど。
そしてもう一つの変化、一時的に僕に付加させたライカ魔法“ヘルメス”を使って美核の過去・現在・未来を見に行き、現在位置と状況を把握する。
見えたのは、薄暗い岩肌と鉄の檻。そして少ないながらも美核の周囲にいる人々……その数、10、程度だろうか……おそらくは、美核と同じ状態の人、だろう。
……やっぱり、攫われてたか……
おそらく攫ったのは噂になっていたゴロツキ共、そしてその目的は……人身売買。
大金を手にするために人さらい、か……さらに、それを買い取るやつも存在する、と。
まったく、どんな世界でも人間の考えることは同じなのか……
内心で怒りを感じながら、僕は冷静に場所の特定をする。
いろいろとやっているうちに、現在僕は美核の簪を拾った竹林の道にいる。正確な場所は覚えてないけど、たしかここら辺だったはずだ。そして美核の居場所は、ここからならそこまで遠くはない。走って10分ほどだろうか?まぁ、そんな時間使うほどの余裕は今の僕ないけれど。
しかし念のため、敵側の人数と顔を見ておく。……と、その中に三人ほど、少しだけ見覚えのある顔があった。
……ああ、なるほど、美核が狙われる理由の一端はここにあるのか……まぁ、いい。
さて、場所は特定した。あとは行動を開始するだけだ。
……聞こえてなくても、忠告はしたよね?それに、僕の大切な人をさらったんだ……覚悟なんて、もちろんあるんだよね?まぁ、そんなものあったところで、全部折っちゃうから意味ないんだけど……
「じゃあ、行動開始だ……」
「待つんだ星村」
移動しようとする僕の腕を突然掴んで、邪魔をする人間がいた。
「……なにをするんだい、ライカ……」
努めて笑顔のまま、僕は行動を止めた人間、ライカの方を向く。
「星村、なにがあった?君は何をしようとしてるんだ?」
……未だに状況が理解できないライカの問いに、僕は簡潔に答える。
「前者、美核が攫われた。後者、もうわかるだろう?いつものことだよ」
目には目を
歯には歯を
罪には罰を
味方には友好を
中立には不干渉を
そして敵には……
「敵には、最大限の悪意を」
「…………そうか、わかった。それなら……」
「無駄だよ、断る」
ライカがなにかを言おうとする前に、僕は即座に答えた。
ライカの考えてることなんてわかりきってる。簡単なことだ。
「どうせ、僕がなにしでかすか分からないから、人を殺すかもしれないから、この件は僕に任せてくれないか?と言おうとしたんだろう?無駄だよ。なによりお前にだけは言われたくない」
「………………」
どうやら図星だったようで、ライカは言葉に詰まってしまった。
本当に、こいつにだけはそんな考えでそんなこと言われたくはないな。
神奈さんの境遇に怒って村一つ滅ぼしたこいつにだけは、絶対に。
「……もういくよ。邪魔しないでね」
それだけ言って、僕はすぐにライカの魔法で美核のいる場所に“跳ぼう”とする。
が、そこでまた一人、合流する人間がいた。
「およ?くー君にライカさん、いったいどうし……あー」
立宮先輩が現れたのだ。
先輩は、僕たちがどうしてここにいるのか問おうとして、しかし僕たちの様子を見てなにがあったのか理解したようだ。
なんというか、さすがとしか言いようがない……
「なるほどね、美核ちゃんに何かあったかぁ……久しぶりだなぁこんな怒ったくー君見るの。いや、あの時以上かな?こりゃ今度こそ人殺しちゃいそうだねー」
「なに物騒なこと言ってるんですか。そんな怖いことしませんよ」
「そっちこそなに言ってるのよ。部の中じゃくー君が一番物騒な考え方してたじゃないの」
はぁ、と呆れてため息をつきながらも、時間がない、僕が急いでいるということを理解してるからか、先輩はすぐさま表情を引きしめた
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