抹茶ラテ

現在、伍宮の外れ、竹林の足湯場。
僕の目の前には、恩人、人間の立宮美核がいた。
彼女が僕に挨拶をしていてから、場は沈黙に支配されており、誰も一言も発しない。まぁそもそもここには僕と先輩しかいないわけだけど。
先輩の様子を見てみると、目を光らせながら僕のことをじっと見ている。
あ、これは次の一言期待してるな……
とりあえず、なにを言おうか……
まず確認すべきことは、彼女が本当に立宮先輩なのか、だな。もしかしたら稲荷の美核が人化で化けているのかもしれないし。
では、言うべき台詞は……

「私の配下となれば世界の半分をやろう!!」
「半分じゃ足りねぇ!全部よこせ!!」

……うん、大声でなにやってるんだろうと後悔したけど、確信した。
この人は、紛れもない。本物の立宮先輩だ。
確信すると同時に、今まで謎だったいろんなことが理解できるようになった。

「……お久しぶりです、先輩。でも船内で僕の部屋に侵入したり僕と美核を尾行したりストーカー紛いのことはやめてくださいね」
「あ、やっぱりわかっちゃった?でも船の時とここでだけだよ、くー君たちを見てたのは」
「でしょうね」

船の中で僕に話しかけたのも船の自分の寝場所や昨日の甘味処で感じた視線も、先輩のものだろう。
方法としては、恐らく美核の言ってたあの術式……僕が使えたのだから、先輩が魔術を使えてもおかしくない。おおかたライカが術式を知ってて、先輩に教えた、と言ったところだろう。
そして倭光でライカの言っていた神奈さんの“おつかい”、あれは先輩の生活用品をそろえるためのものだ。男のライカじゃ、先輩のをすべて買い揃えるというのは難しいため、神奈さんに頼んだろう。
まぁ正直な話少しの間神奈さんと離れて休憩したいという気持ちも絶対にあっただろうが。
ちなみに、普通であればなぜ先輩がこの世界にいるのか、どうやって来たのかを疑問に思うべきなのだろうが、それについての問題はすでに解消している。
先輩がこの世界にいるのは、迷い込んでライカが発見したとか、そういうのではない。
ライカが、自分の計画のために、わざわざ僕の居た世界を見つけ出して、先輩を呼んだんだ。
僕みたいなイレギュラーではない……本人が魔法に絡むようなものではないから、先輩は望んでライカに頼めばすぐに元の世界に帰れる。ノーリスクだからこそ、先輩はここに来て、そしてライカの計画に加担しているのだろう。

「まったく、とんでもないシナリオを用意しやがったなあの馬鹿野郎……」
「ってことは、もう全部ばれたかな?」
「さすがに結末まではわかりませんが、お節介な理由と意地の悪い計画の全貌ならわかりましたよ」
「ん〜、本当に全部わかったかなぁ〜?」
「と、いうことは、まだなにかしらの仕掛けがあるってことですね……」
「どうだろうね?しっかしさすがくー君。二代目部長は伊達じゃないね!!」
「初代には負けますよ……」

人間、立宮美核。
初代文芸部部長。
僕を造った人。
彼女を一言で表すなら、天才、だと思う。
自分と同じ異端を集めて文芸部を作り上げ
才能の一端を使って大人を黙らせて自由な学園生活を送って
どこまでも、僕たちを楽しませてくれた。
天才、というなら神奈さんも天才ではあるけど、その方向性が違う。
先輩の天才は、カリスマ、と言い換えてもいいかもしれない。
情報や人の心を巧みに操れる天才、それが彼女である。
まぁ、カリスマだけじゃなくて、神奈さんみたいなふざけた身体能力もわずかながらあるんだけど……
そして、僕はほんの一年の間、そんな彼女の跡を継いで、二代目部長となっていた。

「そんなことはないよ。私の後だったから、大変だったでしょ?部として存続させたり、権力維持したりさ」
「たしかに大変でしたが……まぁ、僕の作り主が作り主ですからね。なんとかなりましたよ」
「そりゃ嬉しいことを言ってくれるね」

なんて言いながら、ニッコリと笑う彼女を見て、僕は思った。
やっぱり、僕は立宮先輩のことが好きだったんだな、と。

「ところでくー君」
「なんでしょうか?」
「シナリオがわかったらしいから聞くけど、君の答えは」
「決まってますよ」

先輩の問いかけには、即答できた。
ライカの計画を理解した時から、僕はすでに答えを考えていた。
でも、誤解がないように、もう一度はっきりと言う。

「“僕の”答えは決まってます」
「うん、そっか。それは手間が省けて楽チンだね」

そう言う先輩の顔は、見覚えがないはずなのに、よく知っているような……優しい顔をしていた。
……ああ、先輩、貴女はもしかして……
思っても、その可能性は口に出さない。代わりに、一言。

「……先輩、自分の決めたシナリオに抗うのも、いいものですよ?」
「君は何を言ってるんだかね……そうね、そうするのも、良いか
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