第二話

「生活委員会の会議どうだった? 人間からみた率直な感想を聞かせて欲しいんだけど」
アラクネ娘のエレノアが俺に問いかける。

『ティル・エラック山 生活向上委員会』の第二回会合に人間の協力者として参加した、俺ことミハイル・コルサコフは、どう答えたものかとしばし頭を巡らせていた。

「大筋では正しい行動だと思う。魔物娘の本能を抑え、人間と理性的に対話しようという方針には大賛成だし、それを決めたエレノア達の英断には尊敬の念すら覚えた。未来を想像すると、魔物娘と人間の関係を根本から変化させる可能性を秘めたものになるかもしれない。それ位すばらしいと思うよ。だけど……」

「なによ、歯切れが悪いわね」
エレノアが額の複眼でジロリとこっちをにらみつけた。
微かに膨らんだほっぺたは、内心の不満と不安を表すもの。
この娘さん、外見こそ大人びた美女だが、結構な頻度で幼さを残す態度が顔を覗かせる。
数日間一緒に過ごす内、互いに打ち解けてきたという証拠でもあろう。

「うーん……なんというかな……」
「ハッキリ言ってよね、まどろっこしいのは嫌いなの」

「わかった、率直にいこう……ティル・エラックの麓の森。人間達からなんて呼ばれているか知ってるか?」
「いいえ」
「『帰らずの樹海』だよ」
「酷い名前……まるで私たちが人間を攫ってるみ……たい……な……」

「ああ。人間がここをどう見ているのか、気がついたか。ティル・エラックは魔物の山。山へ入った男は二度と帰ってこない。これはまぎれもない事実だろ」

「で、でも、私たちだって生きる為、子供を生む為にやってるんだし。私の父さんと母さん、娘が見ててムカつくほどラブラブだし。他の家だってケンカとかがまったく無いとはいわないけれど、人間のお父さんと魔物のお母さんで仲良くやってるし……」

「うん。エレノアが言ってるのも事実だよな。だけど、それは人間には伝わってないんだよ」

俺の様に魔物娘とそれなりの付き合いがある者は、彼女達の本質を知る事が可能だ。
だが大多数の人間にとって、感じ方に程度の差こそあれど、魔物とはやはり『恐るべき者』なのである。

隣で静かに話しを聞いていた、ウンディーネのアクエリアスお嬢が口を開く。
「我々の努力は無駄であると、ミハイル様はそうおっしゃりたいので?」

低く震える声色。
ちょっとゾクっとする。
「いや。そんな事はこれっぽちも思ってないよ。でも、今現在委員会で決まっている内容じゃ足りない。あまりにも受身過ぎる。山で人を待ってるだけでは事態は好転しないだろう」

「じゃあ、どうすんのよ」
アラクネ娘が蜘蛛の糸を飛ばし、俺の右腕へ巻きつけた。
おそらく、感情が高ぶり無意識の内にやってる事なのだろうが……
微妙に怖い。

諸々の感情を押さえ込み、腹に力を入れる。
クライアントとなった二人の魔物娘の顔を交互にしっかりと見据え、俺がひねり出した腹案を伝える。

「こっちから打って出るんだよ。人間と商売をするんだ!」

それを聞いたエレノアとアクエリアスは、澄んだ瞳を大きく見開いた。



人が恐れるモノとは何なのだろうか?
暗闇? 災害? 病気? 暴力? ……
それら全てに共通するのは、『ナンだかわからないモノ』である事だろう。

暗闇の先に潜んでいるモノは?
災害によってこうむる被害はどの位になる?
この酷い頭痛の原因はナンだ?
対峙する相手が振りかざす刀は、どんな痛みを与える?

疑問に対する答えが分かっていれば、それらは恐怖の対象となりえない。
どう対処するのか、現実的に考えれば良いのだから。

『ナンだかわからないモノ』だからこそ、無用な想像をかき立ててしまうのだ。
肥大した想像力は、疑心暗鬼と被害妄想をもたらす。
それは、人間という身体能力に劣った種族が安全に生き残る為に発達させた、危険回避能力なのかもしれないけれど。

魔物娘を恐れる理由もそこにある。
知らない・分からないからこそ恐ろしい。

しかし逆に考えると、理解できれば恐ろしくなくなるのである。
幽霊の正体みたり枯れススキ。
商売を通じて、人と魔物娘が価値観を共有できるとなれば、むやみやたらと危険視される事もなくなるだろう。
人間の常識の範囲内に、魔物娘とはこういう感じなんだというイメージを落とし込んでやれば、後の両者の関係は個々人の付き合いでどうとでもなる。
その為には、魔物=『ナンだかわからないモノ』=『恐るべき者』から、魔物=『商売相手』にジョブチェンジすればOK。


「ふむ……」
いささか抽象的すぎる俺の説明を聞き、アクエリアスのお嬢はあご先へ人差し指をあて考え込んだ。

「ワタクシたちは『商売』といった事をいたしません。各々得意な事をやっているだけ。家を建てるのはノームやドワーフ達の役目。皆の服を織るのはエレ
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