11話 嫌なときはしっかり言わないと後々面倒

魔物の住む村、レーフ村。ここには雑貨屋からギルドまで、森の中腹にあるとは思えない程度に栄えている。ゆえにこの村に訪れる魔物も多く、その殆どが旅の途中に訪れた者である。その中には護衛などの依頼をギルドに貼る者も少なくない。

「おいラドン、いるか?」

黒い鎧を来た女性が、扉を開けて朝だと言うのに騒がしいギルドの中に入ってくる。女性は周りにいる客には目もくれず奥にあるカウンターまでつかつかと歩いて行った。カウンターの向こうには暇そうに椅子に座り、パイプをふかした老ドラゴンが新聞を読んでいた。

「おや、これはこれは・・・。カミーユ殿ではありませんか」

ラドンと呼ばれた老ドラゴンは女性に気付くと、読んでいた新聞を折り畳んだ。そして、ニコニコと嫌みの無い顔で女性に笑いかける。

「この様なしがないギルドに一体、何用ですかな?貴女様に見合うような依頼は無いと思うのですが・・・」
「いや、今回は私が依頼をしに来たんだ」
「ホッ!」

カミーユと言う女性の言葉がよほど意外だったのか、ラドンが小さく声を上げる。

「・・・何か問題でも?」
「いやいや滅相も無い!少々意外でしたので驚いただけですよ。・・・にしても、魔王軍騎士団長で在らせられる貴女様が依頼とは?」
「これだ」

カミーユは一枚の紙を取り出すと、ラドンの目の前に置いた。ラドンはその紙を取り上げて一通り目を通すも、ため息をついて紙をすぐにカウンターに置き直した。

「ふむ・・・」
「私一人では心許なくてな。良い人材は居ないか?」
「生憎とうちの若いのではおっつかないでしょうなぁ・・・」

ラドンはギルドを見渡してもう一度ため息をつく。

「そうか・・・」
「・・・この依頼は急を要する物ですかな?」
「いや、4,5日なら何とかなるだろう」
「でしたら、あの者が良いのでは?」
「あの者?」

カミーユが首を傾げる。

「最近ひょっこりやって来た、人間の事ですわい」
「あのひ弱そうな人間の事か?」
「フォッフォッフォ。そのひ弱な人間は先日、奴隷屋を二人退治したそうな・・・」
「それは見所があるな」
「そうでしょう」
「しかし、正確な強さが分からないと危険が・・・」
「では、貴女様が鍛えてやればよろしいのですよ」
「わ、私が!?」

カミーユがあまりの事に大声を上げると、ギルドにいた客が何事かと一斉にカミーユ達の方を見た。それに気付いたカミーユはすまないと一言謝り、顔を真っ赤にしながらラドンに向き直った。

「ええ、それなら問題は無いでしょう?」

ラドンは笑いを堪えながらパイプの煙を軽く吸い込んだ。

「か、勝手にしろ!」

カミーユはそう言い捨てると、紙を置いたままズカズカと音を立てながらギルドを出て行った。

「フォッフォッフォ。」

ラドンは愉快そうに笑うと、紙を取り上げ他の紙に内容と要項を写した。そしてそれをカウンターの横にある掲示板にばぁんと音を立てて貼り付けた。


―――――――


「ふあぁ・・・」

薄目を開けて窓を見てみるともう日は上がっている。朝か・・・。隣にはまだルルナが可愛らしい寝顔ですやすやと眠っていた。
起こさないようにそっと抱きかかえ、足の上へ乗せて起き上がる。何時間も腕枕をしていたせいで肘がカチコチだ。背伸びをすると小気味よく骨がなる。

「ん〜・・・」

そういえば、昨日何か忘れてたような・・・?何だったっけな・・・うーん?・・・ギルド・・・。・・・ギルド?

「し、しまったーーーーー!!」
「みゅん!?」

昨日の薬草採りの依頼、ギルドに結果報告するのすっかり忘れてた!!
この地域では依頼が成功したにしろしないにしろ、必ずギルドに報告をしに行かなくてはならない。成功したらそのまま報酬が貰えるが、失敗すればギルドで待っている依頼者に直接土下座・・・なんてのはいい所。なので受ける依頼は慎重に選ばなくてはいけない。
もとい、薬草採り程度の依頼が出来ないと噂されればもう受けられる依頼がなくなってしまう。それだけは何としても避けたい。

「ど、どうしよう・・・!」
「・・・にーちゃん?」

ふと足元を見ると、目を丸くしてこちらを見ているルルナ。しまった、起こしちゃった・・・。

「ご、ごめん。ビックリした?」
「ふにゅ・・・」

謝りついでに頭を撫でてやるとルルナは気持ちよさそうに声を上げた。
ベッドのほうを見てみると、誰も居ない。・・・もう起きてるのかな?

「スグロさん、おはようございます」
「うわぁ!?」

突然後ろから肩を掴まれ思い切り驚いてしまった。振り返ると、シャーリーがエプロンをし、きょとんとした顔で肩に手をかけていた。

「あ、お、おはよう」
「もう朝ごはん出来てますよ?」
「え・・・」
「あー、スーちゃんおきたー」
「おきたー」
「おねぼう
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