9話 フラグを折るのはいつもの事

「んじゃ、いただきま〜す」

クノーが俺のズボンのジッパーを下ろし始めた。
ごめん、前言撤回。嬉しいけどやっぱりこういうのは間違ってると思うんだ。

「ス、ストップ!クノー、ストップううううう!」
「おいイナミ、いるか?今度の戦の件なんだが」

あわやムスコが公然に晒される直前、ガチャッと言う音と共にドアが開いた。
見てみると、騎士の様な鎧を身に着けた女性が立っていた。その女性はこちらを見ると、固まった。

「・・・すまん、邪魔したな」
「待った!助けてヘルプミー!」

女性はそのまま踵を返してドアを閉めようとする。
このチャンスを逃すとまずい(主に俺の貞操が)!そう直感が言った気がしたので必死に引き止めた。

「・・・お前も同意の上でヤっているのだろう?ならばなぜ助けなど求める」
「いやそれ誤解です!イナミ様にクスリ飲まされた結果がこれです!」
「・・・クスリ?」

女性は俺から視線を離すと、イナミ様の方を見やった。しかしイナミ様はその目を避ける様に顔を向こうに向けた。

「・・・はぁ。イナミ、そういう事は本人の同意の上でだな・・・」
「良いじゃない、ちょっと位」

全然よくない!イナミ様は良いかも知れないけど俺は全然よくない!・・・嬉しいのは事実だけど。

「とにかく、そんな事をしているなら元気はあるな?少し話がしたい」
「これ終ってからじゃ駄目?」
「ハァ・・・急ぎの用なんだが」

イナミ様が尋ねると、女性はこちらを見てきた。俺が軽く首を横に振ると、女性は小さくため息をついた。

「・・・分かったわよぉ」

イナミ様は渋々立ち上がると、騎士風の女性のほうへと歩いていった。

「あ、クノーちゃん?」
「何だ?イナミ様」
「私が戻ってくるまでつまみ食いは禁止よ♪」
「えー・・・」

途中こちらを振り向いてにこりと笑った。・・・笑顔が黒いよイナミ様・・・。

「んじゃ、行って来るわね〜♪」

こちらにひらひらと手を振ると、イナミ様と騎士風の女性は出て行った。

「イナミ様もああ言ってるし、今日は諦めるか・・・」

クノーは渋々と俺から降りた。
た・・・助かった・・・。ともあれ、俺の貞操(社会的な意味で)は守られたって訳だ・・・。
クノーが降りた瞬間、安堵感と、少し残念だという少し複雑な気持ちが俺の心を支配した。一声かけた方が良いのだろうか・・・。

「な、なあクノー?」
「・・・なんだよ」

立ち上がったクノーは不機嫌そうにこちらを見やる。正直、何故こんな事を言おうとしているのかは分からない。徐々に顔が真っ赤になっていくのが自分でも分かる。

「あ、あのさ・・・」
「?」
「・・・俺も、あんな風じゃなかったら普通に受け入れるから・・・さ」
「!」

俺の言葉を聴いて、クノーの目が爛々と輝く。・・・今、俺自分で凄い事言った気がする。でも、この気持ちに嘘はない。

「わ、私も悪かったな」
「え?」

クノーが小さく何かをいった気がしたが聞き取れなかった。。

「な、何でもない!」
「・・・?」

・・・そっぽ向いちゃったよ。

「・・・・・・・・・」
「あ、あの・・シャーリーさん?顔が怖いよ?」

ふと殺気がしたので上を向くと、シャーリーが頬を膨らませてこちらを睨んでいた。・・・怒ってる。これは相当怒ってる。

「・・・リバイタ!」

シャーリーが突然呪文を唱えると、体が動くようになった。
しかしシャーリーはまだ頬を膨らませている。心なしか、目には涙も・・・。

「・・・・・・・・・」

更に強い殺気を感じる。誰のものかはすぐに分かった。・・・サイだ。
予想は的中、サイの方を見ると無表情ながら凄まじい殺気をはらんでいる。

「あ、あの・・・サイさん?」
「・・・知らない」

そ、そっぽ向いて知らないってあーた。俺が一体何をしたって言うのさ!?俺はただ、正直な感想を言っただけじゃないか!!

「スグロ」
「・・・何?」
「あのルルナとかいうワーウルフ、様子を見に行かなくてもいいのか?」
「あ・・・」

すっかり忘れてた。あの子、ちゃんと家に着いたんだろうか。まあ、パサラちゃんたちが案内してるから大丈夫だとは思うけど・・・。心配だし見に行ってみよう。

「スグロさん、お家に帰るんですか?」
「あ、ああ・・・」

シャーリーが表情を変えないまま聞いてきたので、肯定する。
一体何を怒ってるんだろう・・・。・・・だめだ、いくら考えても分からない。

「私もついて行っていいですか?」
「構わないけど・・・」

突然、シャーリーの表情が一変し笑顔になる。

「・・・ウチも」
「ん?」
「行っていい?」
「もちろん」

さっきまでの殺気をはらんだ無表情が嘘のようにサイも笑う。
・・・一体何なんだ?
結局の所、彼女たちが何を怒っていたのかは分からな
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