―――とまあ、今思い出してみても全て成り行きだとしか言いようが無い。
・・・深い意味と言うのも他でもないイナミ様の中にあるに違いない。いやむしろあってくれ。
・・・あの出来事の後、村の中を案内してくれたりギルドに登録しに行ったり(まさかギルドオーナーとやらがゴツい羽を生やしてるドラゴンのじいさんとは思ってもいなかったが)
といろいろあった。
まあそれは置いといてだ。
「お〜い、よかったら飯食ってくか?」
ドアを開き、外で待っていてくれていたクノーに呼びかける。
「肉あるならもらおうかな」
「肉か・・・確か昨日買った干し肉が」
「よし食おう」
クノーは言葉を最後まで聞かずにドアに向かってきた。
どんだけ肉好きなんだよ。
ちなみに、俺は料理は上手くない。数少ない出来る料理の中で上手く出来るのは玉子焼きぐらいか。
よし、朝飯は無難にベーコン(?)エッグだな。
台所にある冷蔵庫もどき(氷精の力を使った開閉式の箱)を開き、卵を取り出して切った干し肉と混ぜた後フライパンで焼く。
この世界にコンロなんて物は無い。竈で焼くしかない。
とりあえず竈に種火を入れて火を熾す。
一応冷蔵庫もどきはそれとしての機能は果たしている。否、それ以上に使い勝手がいい。
飲み物はいつでもキンキンに冷えてるし、食い物も基本的に腐らない。
「そうだスグロ、お前武器はどうするんだ?」
「ん、何?」
卵を流しいれようとした時、不意にクノーが話し掛けてくる。
・・・今なんて言った?・・・武器?
「何って、武器だよ武器。いくら村の目の前にあるラフォンの森って言っても人間であるお前には危険な物が結構あるからな」
「ちょっと待て、武器が要るほどの危険って」
「猛獣に毒虫、盗賊にそれと」
「オーケー分かったもう言わないでお願いだから」
クノーが指で数えるのを遮る。後二つも聞いていたら俺の心は楊枝よろしくポッキリと折れていただろう。
・・・にしても武器か。考えた事も無かったな・・・。
「・・・なら、出来れば鎌がいいんだが・・・」
「・・・・・・」
ふとクノーの顔を見ると、まるで変な物を見たような目でこちらを見ていた。
「・・・どうした?」
「・・・いや、珍しいモン使うんだなと思って」
「いないのか?鎌使うヤツ・・・」
「いることはいる。ただ、数は少ないな」
「ふぅん・・・」
そうこう話しているうちにベーコンエッグがいい具合に焼けた。
我ながらいい出来だ、うん。
「さ、出来たから食おうぜ」
「お、待ってました〜!」
「遅いわよ、スグロ君。レディを待たせるなんて教育、私はした覚えないけどなぁ?」
「え・・・」
声のした方向を見やると、パサラちゃん達を頭や肩に乗せたイナミ様が両手にフォークとナイフを持ち、食べる準備は万端だとばかりに椅子に座っていた。
い・・・いつの間に・・・。
「えっと・・・」
「おいおいイナミ様、そこは私の席だぜ?」
「細かい事は気にしないの。ねっ、スグロ君♪」
と、こちらにウインクをしてくる。
・・・っつーかアンタに育てられた覚えはねぇよ。
心の中でそうツッコみ、ため息をついた。
・・・そうだ
「・・・イナミ様」
「なに、スグロ君?」
「あの・・・」
・・・やはり止めておこう。
完全に思い出していない今訊いても混乱するだけだ。
「・・・飲み物は、何がいいですか?」
「そうねぇ・・・朝だし、やっぱり牛乳かしら」
「分かりました」
フライパンの中に入っているベーコンエッグをテーブルの上の皿に乗せ、冷蔵庫もどきを開けて中からを牛乳取り出しコップに入れる。
そしてそれをイナミ様の前に置く。
「あ、そうだスグロ君」
「はい?」
「森に行くなら気をつけてね?近頃物騒だから」
「ご・・・ご心配ありがとうございます」
ぶ、物騒って・・・。
いよいよ本当に大丈夫なのか?この世界・・・。
「それとパサラちゃん」
「なんですかー?」
「今回は付いて行っちゃ駄目よ?危ないから」
「えー」
「聞き分けなさい」
「わかりましたー・・・」
イナミ様に窘められ、いつもの笑顔が少ししゅんとなる。
・・・そうだよな。付いて来てくれるのは心強いが怪我させる訳にもいかない。
俺はパサラちゃんの頭を人差し指で軽く撫でてやる。
「・・・スーちゃん」
「ん?」
「・・・ぜったいぶじでかえってくること!」
「おう、分かった」
と、威勢良く返事はしてみたものの・・・。
こんなに心配されるほど危険なのか・・・あの森は・・・。
俺は窓の外に見える森も見て、言い知れぬ悪寒とほんの少し期待を感じた。
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