俺は急いで顔を洗い、ドアノブに手を掛けた。
すると、いつの間にか起きていたパサラちゃんが彼女たち特有の笑顔を崩さないまま頬を膨らませ頭の上から俺の顔の前まで降りてきた。
そして俺の目の前にビシッと人指し指を向けた。
「ど、どうしたの?パサラちゃん。偉く機嫌悪いみたいだけど」
「朝ごはんはちゃんと食べないとだめ〜」
「・・・・・・」
パサラちゃんは普段おっとりしているくせにこういう事にだけは眼がいく。
面倒見がいい、と言うよりは少々お節介といった感じである。
俺を叱る前に外出ギリギリまで寝ている自分をどうにかして頂きたい。
ちなみに何故俺がこの村に寝泊りし、このもふもふ五姉妹と一緒に寝起きしているかと言うと一応深い訳がある。
それは二日前―――
俺は森でバケモンに襲われ、全力疾走でこの梢まで逃げてきた。
どうやら村は近いらしく、かすかだが人の声が聞こえてくる。
近くにあった木にもたれかかり息を整えていると、どこからも無く小さな綿毛のようなものが此方へ飛んできた。
「あれ〜?にんげんだ〜」
「え・・・」
・・・喋った。綿毛が喋った。
しかもよく見ると小さい女の子、俗に言う幼女だ。と言うか文字通りっつーか何と言うか小さすぎんだろ、オイ。
「あはは、おもしろいかお〜♪」
「・・・・・・」
あまりの事に唖然としていると、女の子は此方を指差しながら笑い始めた。
なんとも幸せそうな笑顔である。見てるこっちまで笑顔になりそうだ。
「おねえちゃ〜ん?なにしてるの〜?」
「の〜?」
増えた。毛玉が四つ・・・もとい、ミニ幼女が4人増えた。
「あ、にんげんだ〜」
「にんげん〜」
子供ならではの純粋な笑顔で此方に近づいてくる。
「こんなとこでどうしたの〜?」
「まよったの〜?」
「いや・・・迷った・・・訳じゃ・・・」
まだ息が整っておらず、途切れ途切れながらも返事をする。
あ・・・意識が朦朧としてきた・・・。
突然、近くの茂みがガサガサと動いた。
その方を見てみると・・・
「お?何だ何だ?」
「・・・!?」
・・・鬼だ。鬼がいた。
緑色の肌に額にある一対の角。
終わった・・・俺はココで鬼に喰われて死ぬのか・・・。
思えば短い人生だった・・・と言うか最期が落とし穴の先の不思議な世界って・・・
「お、人間じゃん。何でこんなとこにいるんだ?」
「さ〜」
「わかんな〜い」
「おーい、大丈夫か〜?・・・返事しないな・・・一度私の部屋に連れて・・・」
薄れ行く意識の中、最後に聞こえたのは「コイツ、美味そうだな」と言うものだった。
・・・熱い・・・何だ・・・?ここは・・・。
グツグツと音が鳴っている・・・。ああ・・・この音を聞いてると鍋を思い出すなぁ・・・。
・・・鍋?熱い?
・・・・・・・・・。
「俺は鍋の具財じゃねぇええぇぇ!!っつーかせめて人肉はきっちりと血抜きしてからにしろやあぁあ!!」
可能な限りの声で絶叫し、俺は勢いよく起き上がった。
「お、起きた。」
「おきた〜」
俺の絶叫がなかった事のように緑色の角が生えた俺と同い年くらいの女の子と先ほどの綿毛幼女が冷静にこちらを見ていた。
「よっ!」
「よ〜!」
「・・・どもっス・・・」
「私の名前はクノー、種族はオーガだ」
「わたしはパサラ〜、ケサランパサランだよ〜♪」
「・・・・・・じ・・・自分は、スグロ、と申しマス・・・人間・・・デス・・・」
パサラちゃん・・・とやらは自分の自己紹介が終わると、すぐに俺の頭の上に乗った。・・・もふもふしているな。
・・・ってオイ!何普通に会話してんだ俺!!
ケサランパサラン・・・ああ、少し前「幸福を呼ぶ毛玉」とかいって話題になったヤツか・・・ってオーガ!?オーガってあの北ヨーロッパとかにいる人食い鬼・・・!?
「お、俺は喰っても美味く無いっスよ!?骨と皮ばっかで身なんかこれっぽちも」
「あ〜?何言ってんだお前、私は人間なんか食べないぞ?」
「え・・・」
「魔物だからと言ってみんな人を食うわけじゃないぜ?」
「そ〜だそ〜だ〜!」
「は・・・はぁ・・・スイマセン・・・」
身構えながらの俺の発言にオーガの女の子は呆れ、ケサランパサランの子は頭の上で手足をじたばたさせた。
・・・っていかんいかん、また流されてる。
「あ・・・あの〜クノー・・・さん?」
「ん?何だ?」
「ここは一体・・・」
「ここか?ここは私の部屋だが・・・」
「いえ、そうじゃなくて・・・」
「・・・ああ、すまん。ココはレーフ村、海に近い森と山の間にある村だ。それと、私を呼ぶときはクノーでいい。後敬語も要らないからな」
・・・あ、ここがあの人魚の方が言ってたレーフ村か・・・。
だとしたら・・・
「えっと・・・」
「ん?」
「人魚のメイトさんにここに来ればいい
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