俺の名前はスグロ、極々一般的な10代後半の学生・・・のはずだ。
ただ、朝起きると頭や肩にもふもふした毛のようなものをスカートにした文字通り小さく、幼い女の子が居て、周りに住んでいる隣人たちがトカゲの尻尾を持ってたりとか半身魚って人がいること以外は。
「スーちゃんなにかんがえてるの〜?」
「てるの〜?」
頭に乗ったもふもふのうちの二つがこちらに話しかけてくる。・・・もふもふしている。
ちなみに頭に乗っているもふもふは三つ。
しかし話しかけてきたのは二つ。もう一つは・・・眠っているのか。
かなり小さいが寝息が聞こえる。・・・もふもふしている。
「ひまだからあそんで〜」
「あそんで〜」
今度は肩に乗っているもふもふが俺の頬をペチペチと叩く。・・・もふもふしている。
「「「あ〜そ〜ん〜で〜!!」」」
仕舞いには五つのもふもふ全てで「遊べ」の大合唱・・・。・・・もふもふしている。
・・・けど五月蝿い。
「なんであそんでくれないの〜?」
「の〜?」
この肩に乗ってやたらと遊べと言ってくる二人はサラちゃんとケサちゃん。
ええ、台詞通りの天真爛漫娘です。本当にありがとうございます。
「むしはよくないよ〜」
「むしはどろぼーのはじまりだよ〜?」
「すー・・・すー・・・」
頭に乗っているのはランちゃんとパラちゃん。
ちなみに寝てるのはパサラちゃん。
パサラちゃんは五人姉妹をまとめる長女だと言うのにのんびりしている。
・・・それ言うなら嘘をつくと〜だろうがッ!
どこからそんな間違った情報仕入れて来るんだよ!?
というかいい加減起きろッ!
「・・・朝っぱらから五月蝿い」
五つのもふもふ―――彼女たちケサランパサランは、日本でも言わずと知れた生き物である。ただ、日本だとおしろいを食べて増殖するだとか幸せを呼ぶ毛玉だとか言われているが
そんな事は無い
いや、後者に関しては本当である。
幸福・・・にはしてくれる。うん、多分きっと。―――そんなケサランパサラン達が俺の不機嫌そうな声とは裏腹にやっと構って貰えたと言わんばかりに嬉しそうな顔をしている・・・はずである。見る気無いけど。
・・・この場所、レーフ村に来てから早3日。
慣れたといえば慣れた。・・・ただ、相変わらず自分と違う容姿の彼女たちに不安を隠せないと言うのが現実だ。でも、それにもなんとなく慣れてきそうだったのでまあいっか。
俺がこの場所に来たきっかけは何とも間抜けなものである。
近所のガキがこしらえた落とし穴に落ちた
我ながら語りたくない。出来れば過去の黒い記憶と共に抹消してしまいたい。
その落とし穴が腰までとかそんな可愛いレヴェルならともかく、身長が170cm
近くもある俺がスッポリ落ちて、かつ異世界にまで通じさせるとは昨今のガキンチョには恐れ入った。・・・たとえ異世界云々の部分が偶然だったにしろ。
落とし穴の底に光が見えたかと思うと大空へいつの間にかI can flyしていた。
勿論飛べるはずも無いので落下。しかも凄い勢いで。
そして落ちたのは海。今思えばこの時陸地じゃなくて本当によかったと思う。
落とし穴を掘った少年よ、ありがとう。お詫びに見つけたら指二本のデコピンを食らわせてやろう。安心しろ、板程度なら穴が開く。
なまじ非常識な高度から落ちてきた俺は着水と同時に気絶、そこで人魚の方に助けてもらった。
そして人魚さんの善意でこの村のことを教えてもらった。・・・書いてもらった地図は生憎だがバーコードリーダーは持っていなかったのでお礼を言って分かれた後すぐ捨てた。何で紙を真っ二つに割るようなまっすぐな線だけなんだよ。バーコードにしかみえねぇよ、アレは。
道に迷ったり魔物に襲われたりして村にたどり着いたわけだが、正直人魚の方にあった時点でなんとなく気付いてた。
ココ人間界じゃねぇ、と(現に襲われたし)
・・・とまあ、こんな感じでこの村に
「お〜いスグロ、起きないと遅れちまうぞ〜。ギルドの許可得て一緒に薬草取りにいくんだろ〜?」
外から鬼亜人種であるオーガの女の子、クノーが大声で俺の事を呼んでいた。
おっとそうだった。肩から上にかけてのちんまいもふもふ幼女たちと過去話にに気を取られてすっかり忘れていた。
今日から仕事、「働かざるもの食うべからず」である。
もとい一応貸家だし家賃は払わんと。
「しごとだ〜♪」
「しごと〜♪」
「しごとであそぶ〜♪」
「あそぶ〜♪」
「すー・・・すー・・・」
「遊ばねぇよサラちゃんにケサちゃん!!っつーか早く起きろよパサラちゃん!!」
朝の日差しの中、俺のツッコむ声が虚しく響いた・・・。
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