6話 普通・・・ってなんだっけ?

「あ〜、面倒臭ぇ・・・。」
「あたしのけんをうけたらそんなたいどでいられないんだからね!」
「そうか、じゃあ気を付けないと駄目だね。」
「む〜、いまにみてなさいよぉ〜!」

夕華ちゃんは地団太を踏みながら自身の身長の半分ほどはある得物を構える。剣といってもお互い怪我をしないように木刀だ。因みに夕華ちゃんの木刀の形は両刃の、俗に言うグラディウス(ラテン語で剣の意)。俺は日本刀の形をしている。

「え〜っと、陽介・・・。一体これはどうなってんだ?」

騒ぎを聞きつけて事務室から出てきた鉄ちゃんが尋ねてくる。

「聞かないでくれ・・・色々あったのさ。」
「・・・とりあえず絶対に怪我だけはさせないでくれよ?」
「あたぼうよ。んじゃ、合図は頼んだぜ。」
「了解。・・・じゃあ二人とも、間合いを離して。」

鉄ちゃんの指示に従い、俺と夕華ちゃんはお互い二歩ほどずつ離れる。ふと夕華ちゃんの方を見ると、リザード種特有の尻尾に火が灯っていた。

「準備はいい?」
「いつでも。」
「あたしもいーよ!」
「じゃあ始め!」
「てやあああああ!」

鉄ちゃんの合図で、夕華ちゃんが気合と共に一気に間合いを詰めてきた。そして夕華ちゃんは大振りながらも的確に体に当てにくる。木刀だと言えど剣を振る際にも体の芯はぶれていない。

「へえ、上手いね。」
「ひゃわぁ!?」

いくら的確に打ち込もうと大振りであれば受けるのは容易い。剣を相手の軌道上まで持ち上げ、片手で受け止める。剣を押し返された夕華ちゃんは体制を崩してしまい、よろめいた。本来なら相手に隙が出来た此処で斬りかかるのだが今回は子供が相手。そこまで本気で行く事も無いだろう。

「むぅ〜・・・いがいとつよいじゃない。」
「お褒めに預り至極光栄。」
「うりゃあああああ!」
「おっと。」

今度は下から上へと斜めに振られた剣を当たるか当たらないかギリギリの所でかわす。

「もお〜!かわすな〜!」
「・・・じゃあ動きもしないし受けもしないから、一発打ち込んでみな。」
「え・・・?」

俺は刀を下ろして体から力を抜き、すぐに来るであろう衝撃に備える。そんな反応が意外だったのか、夕華ちゃんの手が一瞬止まった。

「どうしたの?打ち込まないのかい?」

夕華ちゃんを刺激するように、わざと指で挑発をかけてみる。すると、夕華ちゃんの尻尾の焔が一気に燃え上がった。

「じゃーおのぞみどおりいっぱつでしとめてあげる!」
「ん。いつでもどうぞ。」
「てええええええええい!」

夕華ちゃんの得物が真横に振られ、横腹へ突き刺さる。

「う゛っ・・・。」

剣の当たった部分から痛みが走り、思わず呻き声が出る。体制が崩れそうになったが、左足を踏ん張らせて何とか留まることができた。

「・・・ふぅー。」

痛みを深呼吸と共に口から逃がし、夕華ちゃんを見据える。

「へ・・・?」
「良い払いだ、本当に剣だったら斬れてたかも知れないなぁ。」
「・・・いたくないの?」
「痛いよ。」
「な、なんでたってられるの・・・?」
「耐えられない程じゃないしね。」
「う・・・うわあああああああ!」

目を畏れ一色に染めて夕華ちゃんが斬りかかる。その軌道は剣を齧った事がある人間なら誰もが読めると思えるほど単純な物。
・・・これ以上怖い思いはさせたくないし、そろそろ終いにするかな。
精神を落ち着かせ、八相の構えを取る。

「じゃあいい太刀筋に敬意を表して最後に一言・・・って言っても、聞こえてないかな。」
「わああああああああ!」
「上を知りなさい。」

夕華ちゃんの剣を弾き、わざと刀から手を離す。刀の切っ先が地面に付くのを合図に、柄を取り刃を返して斬り上げる。

「天地流“抜(ぬき)の構え”弐之型『菖蒲(あやめ)』」
「うわわっ・・?!?」

斬り上げるといっても当てた訳ではない。剣を弾いただけで後の動きはただのデモンストレーションだ。それでも夕華ちゃんの小さな体は弾かれた衝撃に耐え切れず体勢が崩れて後ろへ倒れそうになる。

「おっとっと・・・。」
「ふぇ・・・?」
「それまで!」

真後ろに倒れそうになった夕華ちゃんの背中を支えてやる。それと同時に聞こえてきた鉄ちゃんの大きな声で勝負が決着した。

「・・・・・・。」
「・・・大丈夫?どこか痛い所は無い?」
「・・・あ、・・・うん。」

背中を支えてから俺の事をじっと見つめていた夕華ちゃんが気付いた様に小さく、それでいて弱々しく返事をする。
どこか打ってしまったのだろうか。だとしたら大事だ。

「本当に大丈夫?痛い所があったら・・・。」
「・・・・・・。」

何か、夕華ちゃんの俺を見つめる目が段々熱っぽくなってるのは気のせいだろうか。尻尾の焔も徐々に勢いを増してきてるし・・・。

「・・・し」
「ん?」
「ししょ
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