なんで来ないのよ?

夕陽の眩しい商店街に威勢のいい声が響く。

「らっしゃーせー! 今なら揚げたてコロッケ98円! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」

雑踏に負けじと、青年はまるで競りのように声を張り上げていた。
彼の名は篠宮 康介。篠宮精肉店の跡取り息子にして、齢はたったの18歳。
既に代替わりした、なんてわけではなく、卒業間もない春休みゆえの店番である。

若いとはいえ、小学校の頃から康介は両親の手伝いをしてきた。
慣れた手つきでフライヤーから取り出したコロッケを、お客さんによくみえるようショウケースへ置く。
こじんまりとした精肉店から香ばしい揚げ物の香りが漂い、道行く人々の空きっ腹に残酷な攻撃を仕掛ける。夕飯時のこの香りは、殺人的とも言えるだろう。

「今なら揚げたて、揚げたて、…………とにかく揚げたてだよー! お買い得だよー!」

揚げたてしか押し所はないのか、と向かいの八百屋の親父は笑いを堪える。
ちらりと康介を見た女子高生はクスクスと微笑ましそうだった。
だが、店の前まで足を運ぶ人……すなわち客は意外となかなか来ない。

「ぐぬぬ……!」

悔しそうに歯噛みする康介。
だいたい、こうやって彼が一際騒いだら渋々割引のシールを貼るのはこの商店街の常識だ。
みんな、それを待っているだけである。

「何でや、コロッケ揚げたてのが美味いやろ!?」

お手頃価格には勝てなかったよと、虚しい絶叫である。

「相変わらずこの時間は繁盛してないねー、コウちゃん」

そんな風に人目も憚らずに騒がしい彼に、にゅっとレジに乗り出す一人の男。
康介は、そんな突然の来訪にぎょっと目を丸くした。

「うぉう!? お、驚かせんなツカサ!」
「はろはろー。元気してるー?」

ツカサ、菜摘 司は康介の幼馴染だ。
幼馴染と言うよりは腐れ縁と言った方がしっくりくるかもしれない。
幼稚園から小学校、一個駆け上って高校まで康介は司と同じだったのだから。
もはや熟成を通り越して腐敗である。BLではない。

「へへ、見ての通りだよ。そういうお前はちょい眠そうだな」
「んー? あー、最近ちょっとソーシャルゲームに嵌ってさぁ。ホラ、春休みって暇だし」

重たそうな瞼をぐしぐしと拭う司に、康介ははてと首を傾げる。
ソーシャルゲームとは何ぞや? と、顔に書いてあった。

「あぁ、コウちゃんは携帯ってメールと電話ぐらいしかしないもんね。……っと、これこれ」

そう言って司が取り出したガラパゴスケータイ。
パカッと開いて見せた画面には、何やらピンクっぽい感じのデザインフォント。

『マモノタイムオンライン』

字のすぐ下には、頭に猫耳やら角を生やしたヒトっぽいキャラが並んでおり、中には少し人間という原型からかけ離れた一つ目や触手がにょろにょろしているのもいる。

「へぇ、なんかオタクっぽいな」

わいのわいのと並ぶキャラクターはどれも女の子。
それも、ちょっと可愛らしい萌えキャラっぽいデザインだった。
あまりそういった文化に明るくない康介は、率直な意見を言う。

「まぁちょっとそれっぽい所もあるけど、けっこう面白いゲームだよ」
「ふーん? どんなゲームなんだ?」
「大雑把に言うと、このタイトル画面に並んでる……魔物娘って言ってモンスターをモチーフにした女の子と色々するゲームかな? ストーリーはアンチヒーローもので、RPGで言う感じの魔王側で、魔物娘と勇者を倒すんだって」
「……なんかどっかにありそうなゲームだなぁ」

興味なさげに適当なことを言う康介。
そんな彼に、司はいやいやと指を振る。よほど推したいゲームのようだ。

「これが結構フクザツなんだよ〜? パートナーの魔物娘のステータス管理が難しいの」
「ステータス管理? レベルを上げて物理で殴ればいいじゃねーか」
「チッチッチッ……このゲームに初めからレベルなんて概念はなかったんだよ!」

ドヤァァァァ。

「……………………お、おう」

いまいち司のテンションについていけない康介は、気のない返事くらいしかできなかった。
戸惑う様子が伝わったのか、司も恥ずかしそうに少し赤面する。

「……こ、コホン。えっと、このゲームは敵を倒して経験値を稼ぐって言うシステムじゃないの」
「え? じゃあどうすんの?」
「魔物娘をね、一人パートナーに選んでスキンシップして魔物娘のやる気を引き上げるの。言うなれば親密度なんだけど、ここがミソなんだよなぁ」

しみじみと言う司に、康介はいまいちどういうことなのか呑みこめない。
実際に見てもらった方が早いかも、と司は携帯をポチポチと操作する。
少しして、康介に見せるべく彼が持ち上げた携帯の画面には、女の子の立ち絵があった。
ミノタウロス、というデカデカとした文字の下に、まるで闘牛のように荒々しい女の子が。

「僕のお
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