最近、マリハラが大学に来ない。
マリハラ、もとい毬原悠は中学から長いことつるんでいる友達の名前である。
やや内気ではあるが本の趣味で意気投合した仲であり、付きあいも無駄に長いせいかお互い何やかんやと気心の知れた、俗にいう親友とも言えるヤツだ。
バカではないが病弱なクチでもなく、授業をサボるほど不真面目なヤツでもない。
そんなマリハラが講義に2週連続で会わないともなると、さすがに心配にもなってくる。
(インフルエンザの時期だしなぁ……)
最近、お祭りも近所であり、例年の倍以上人が集まったと聞く。
俺の知る限り、マリハラは出不精というわけではない。もしかしたら、祭りにふらっと参加して、迂闊にも風邪なりインフルエンザなりを貰って寝込んでいる可能性は大いにある。
そう思い込み始めると、途端に不安になってくる。
何といってもアイツも俺も地元を離れての一人暮らしだ。ぶっ倒れても介抱してくれる親はいない。
スマートフォンを起こし、マリハラにLINEを送った。
『生きてるかー?』
10分ほど待つも、既読が付かない。
嫌な予感に煽られている自覚はあるが、どうにも不安で落ち着かない。
仕方ない。確か、今日はもう受ける講義はない。
マリハラのアパートは、大学から徒歩5分ほどの近所だったはずだ。
「差し入れでも買ってってやるか」
適当に購買で甘味を買い、俺はマリハラのアパートに向かうことにした。
はははー、友達思いだなー俺は。
そんなこんなで、マリハラのアパートについた。
3階角部屋、何度か遊びに行ったから、普通に覚えている。
念のためと『毬原』の表札を確認し、インターフォンに人差し指を押しつけた。
「マっリハっラっくーん、あっそびっましょー」
ピンポーン、と無機質なチャイム。
手持無沙汰にLINEをチェックすると、一応既読が付いていた。
携帯を見れている、ということは生きているらしい。
疑っていたわけではないが、内心ホッとした。
なんて思っているうちに、インターフォンスピーカーにノイズが走った。
ガチャ
『………………………シノ?』
「おいーっす。来ちゃったー」
独特な呼び名に適当に応え、カメラに向かってひらひらと手を振って見せる。
ついでに、購買で買ったシュークリームを掲げてやった。
「ちょうど季節のフェアやってたから苺シュークリーム買ってきてやったぞー」
『………………………あ、ありがと』
「おー?」
なんだか、妙に沈黙が長い。
おまけにスピーカー越しとはいえ、マリハラの声がどこかソプラノっぽく高く聞こえる。
ひょっとすると、風邪とか以前になにかタイミングが悪かったのだろうか?
「ひょっとして出直した方がいいかー?」
『やっ、だ、大丈夫! い、いま鍵開けるから!』
「おっ、おーう」
食いつかんばかりの勢いに、思わず返事に困る。
しかし、声の調子からなんとなく元気そうなことだけは分かった。
ブツッ、とスピーカーの切れる音とともに、バタバタと玄関扉の向こうから慌ただしい音が響く。
程なくして、ガチャリ、と鍵の開く金属的な音がした。
「………………」
なんとなく、ドアが開くのを待つ。
しかし、開けるかなーと待ってみるも特に反応がない。
仕方なくドアノブに手を伸ばすと、触れる前にガチャリとノブが捻られた。
「やっほ────」
と、呑気に声をかけようとして、固まった。
ギィー、と遠慮がちに開けられた玄関扉の向こう。
だぼだぼの体格に合っていないスウェットを着込んだ、どこかマリハラに面影のある少女が、恥ずかしそうに服の裾を押さえて立っていた。
その見覚えのあるスウェットと、頭に生えたツノと背中のツバサと尻尾に、一つ思いあたる可能性を見出し、なんとか喉から確認の声を絞り出す。
「────……あー、マリハラ、さん?」
「や、やっほー……、シノ」
消え入りそうな声で手をあげる彼女。
見違えるほどにノリ切れていないが、どこまでもその少女の立ち振舞いはマリハラだった。
思わず、キャラ作りが剥がれて素になった。
「え、ちょ、お前マジでマリハラ……?」
「う、うん……。そうなんだけど、と、とりあえず上がって!」
そう言って、マリハラは俺の手を掴んで部屋へと引っ張った。
半ば現実を受け入れられず、されるがままにリビングへと通される。
洗濯物が几帳面に畳まれ、1から順にきちんと本棚に詰められた小説。
見慣れたこの部屋は、間違いなく俺の知っているマリハラの部屋だった。
「え、っと……、まぁ、コタツ入っててよ。紅茶淹れるから」
「お、おう……」
気の利くところと女子力の高い対応は、間違いなくマリハラだ。
といっても、女子力が天元突破して女子になっているせいか、洒落にならないのだが。
呆然としているうちに、マグカップを二つ持
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