魔物娘なる新種の女性が跋扈する昨今でこのような発言をすると誤解を招くかもしれないが、僕は女性が嫌いだ。かといって、男性が好きというわけでもない。
大きな枠組みで言えば、他人と言うものが嫌いなのだ。
その中でもとりわけ女性が嫌い、と言った方が僕の伝えたいニュアンスに即している。
こんなことを真顔でのたまっている僕を、世間は人間不信の弱虫野郎という烙印を下すのだろう。
しかし、正味世の中クソだなと思う僕をして言えば、世間の評価なんかどうでもよいものである。
目下にコケにされることほど滑稽なものはないと、斜に構えて受け流す自分が正しい姿だと思っている。
だって、そうだろ。
こんな生きにくい世界、素直に生きてるヤツがバカだ。
プリントを配るだけで嫌な顔をされ、目の前を通れば陰口を叩かれ、特に理由もないのにハブにされ、面倒なのか先生にもまともに取り合われず、嫌になって部屋にこもればやれ心が弱いだの。
まともに取り合ってたらキリがないんだ。
この世は煩わしいもの全部取っ払って、楽して楽しく生きたヤツが勝ち組なんだ。
ネットで希薄な人間関係を築いていればワイワイしてるみたいなそれっぽい気分を味わえるし、外に出なくても便利な世の中だから通販なんてものもある。
ゲームの通信対戦で他人に勝って優越感に浸ることを虚しいとは思わないし、遊びの範疇で済ましている分だけむしろ平和的とさえ思える。
好き放題やってても全部僕のお金なんだし、誰にも迷惑かけてないのに悪く言うヤツはひがんでるだけだ。
つまり、僕の生き方は何一つとして間違っていない。
外敵から身を守るために巣に籠る野生動物と何ら変わりはない。
餌が巣にあるなら引きこもって食っちゃ寝するのは生き物として自明の理だ。
だから、僕は一番賢い生き方を選んでいる―――。
「……………」
カチ……カチカチカチ、カチカチカチ。
『K.O! You are Winner!!』
なんて、自分を納得させるのに必死になっている時点で負けているのだろう。
でも、勝ち方なんてサッパリ見当もつかないんだ。
コントローラーを万年床に投げ捨てて、僕はごろりと仰向けになった。
『Continue? 10……9……8……』
ブラウン管TVの光がチカチカと天井を照らしていて、見上げた木目が人の顔のように見えた。
ように、なんて言っても、ここ最近、三次元の人の顔なんか全く見てないのだが。
Amazones(通販)も利用しなければ、僕を訪ねる人なんか一人もいない。
『3……2……1…………Game Over!』
プツッ、とTVの電源を消す。
ゲームのBGMが消えてしまえば、平日の真昼間のなんと静かなことか。
このまま寝ちまおうかなぁ、なんて半ばやけ気味に思わないでもない。
――しかしまぁ、そんな自堕落な判断は僕が許しても天が許さなかった。
ピンポーン
玄関から、そんな音がした。
いや、曖昧に濁してなんだが100%チャイムだ。
だけど、正直いやいやあり得んだろと思っていた。
通販注文した覚えはないし、平日の真昼間にくるような相手なんて尚更覚えがない。
だからきっと、隣の家のチャイムが鳴ったのを聞き間違えたんだろう。
そう思って、僕は瞼を閉じた。
ピンポーン
また鳴った。
あと、分かりたくなかったけど音量的にやっぱりウチの玄関からだ。
誰だよこんな時間に……、面倒くさいし居留守しようかなぁ……。
ピンポピンポーン
まるで見透かしたかのような連打。
うわ、こわ。
向こうも帰る気がないのか何を考えているのか、一定間隔でチャイムを押し続ける。
こうも煩いと眠気も覚める。仕方ない、と僕は重い腰を上げることにした。
ピンポーン
「はいはい……今行きますよっと……」
カチャリと鍵を開け、ドアノブを捻り、扉を開く。
よくよく考えてみれば、せめてドアスコープで相手くらい確認すればよかったかもしれない。
僕は、かなり迂闊だった。
「あの、チャイム何度も押さないで……くれま、せん……か…………」
そこには、悪魔がいた。
場違いなアパートの手すりを背に、何かのラスボスにでもいそうな悪魔がいた。
青い肌を惜しげもなく晒す、鬼のように禍々しい角と、蝙蝠のような不気味な翼をたたえた悪魔が。
「あら? やっと出てきたわね」
艶やかな微笑を浮かべて、悪魔がそう言った。
胃がきゅうってなるのが、手に取るように分かった。
「実は貴方にいい話が「か、帰ってください……」」
「え?」
我ながら、よく絞りだせたものだと褒めてやりたい。
しかし、残念ながらこの悪魔、まるで聞こえなかったみたいに目を丸くしていた。
「や、あ、あの……か、帰ってくださるとうれしいなぁ……みたいな……」
なけなしの勇気を振り
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