「くそっ、くそっ、くそ……っ!」
苛々を露わに、まるで人でも殺しそうな鋭い目つきの男が仰々しく歩いていた。
ぶつぶつと暗い呪詛は敵意をむき出しに、後ろをついていく自分としては苦笑いだ。
こんな奴と警邏なんて災難だなー、と顔に書いてあるのは口にまでは出せない。
「落ち着きましょうよロス隊長。たかが子供の戯言なんでしょー?」
「お前は、我々の苦労も知らぬ僻地のガキに馬鹿にされて何とも思わんのかッ!!」
いや僻地だから仕方なくねー? と思わずにはいられない。
そも、かの部隊長ロスさんこそ偉ぶるばかりで礼儀を知らない。
熱心なのは結構だが、押し付けがましい奴はそりゃウザがられますがな。
……なんて言おうものなら首が飛びかねないほど物騒な男なのは、よく知っている部下Aでーす。
「まぁ私は馬鹿にされてませんし? つーか、そんなの聞き流しましょうよ」
「聞、き、な、が、せ、る、かッ!! 我ら神兵の同胞全てへの冒涜だぞッ!!」
うわー仲間思いだなー泣けるなー憧れちゃうなー……。
どうすりゃそこまで熱心になれるのやら……。
「じゃあもうパパッと魔物討伐して見返してやりゃーいいじゃないですか。実際にやってみせりゃー子供なんですから『うわーあの兵士△』みたいに目ぇ光らせますよ」
「……む」
そうでもしないと穏便に終わらん。
この人、下手するとその子供に大人げなく剣向けそうだし。
良かったな名も知らぬ少年。おじさんが上手く助けてやったぞ。
「そうすりゃシュシンさま? の信仰も改めて煽げますし一石二鳥じゃねーですか?」
「なるほど……我ら教団の威光を思い知らせるわけか」
「そーそー」
もうそれでいいよ。
「まぁ今回は隊長含め腕利きも揃ってますし、パパッと済ませましょうや」
「お前の意見はよき訓示であったが、油断は感心しないぞ。相手は下位とはいえ魔物だ」
「ぶっちゃけ追い払うのが精々ですもんねー毎度」
もしくは全滅。
綺麗さっぱり帰ってこないか、何人もの犠牲の末にやっと追い返すか。
魔物との戦いは、隣にいた同僚がいつの間にか神隠し然と消えているなんてザラだ。
その後、その消えたやつがどうなったのかが分からないのが、何よりも恐ろしい。
「……此度の遠征は、誰一人の欠員なく帰還するぞ」
ロス隊長、それフラグです。
「でも、やられた奴らってどうなってんですかね?」
「さぁな。運が良ければ馬車馬奴隷、悪ければもう腹の中やもしれん」
「個人的にゃー奴隷の方が嫌ですわー……」
「だが、まだ助かる可能性はある。何にせよ、生きているなら可能性があるなら捨て置けん」
……まだ生きているなら、待遇次第で恐ろしい限りなんですけどね。
希望に満ち満ちてる隊長に、こりゃ言えんわな……。
「もしかしたら魔物とよろしくやってるかもしれませんがねー☆ ホラ、あんな感じで美人ですし」
と、都合よく歩いてきたジパング風の旅商をダシにおどけてみる。
足袋に草鞋、浅葱の着物、背籠に編笠。着物からちらりと覗く肌は色白で、線も細い。
咄嗟に冗句で美人と言ったけども、改めて見りゃその一言で済ますのが失礼なくらい美人だった。
「んぁ? ウチ?」
編笠をくいっと持ち上げ、旅商が顔を晒す。
とろんとした目尻に、どこかのんびりとしているが端正な顔立ち。
……ジパング万歳!
「バカ、他人様を指差すやつがあるか……! 申し訳ない、部下が無礼を……」
「やぁ、別に気にせんしえぇよ。ちゅーか、美人やなんて口の上手い部下でんなぁ」
いやいや本心ですよ?
お姉さんマジ美人っすね。
「あ、せや。ほいじゃあ詫び代わりにちぃっと聞きたいことあるんじゃけど、構へん?」
「何なりとー、私で答えれる範囲なら幾らでも構いませんよ♪」
……下心隠すのって難しいな……。
シラフシラフ、経験則から格好つけるとがぶり寄ってるのがバレる……!
後ろでロス隊長がため息吐いてるのが聞こえるけど気にすんな!
「ウチな、この辺りに来るん初めてやけぇ何が有名なんかサッパリ知らへんのやけど、良かったらあんさんの独断と偏見でオススメとか教えてくれへんか?」
「つまり……特産品とかですか?」
「平たく言やそんな感じかにゃあ? 何かある?」
……本土で暮らしてた分、このド田舎の不便さにオススメもクソもないんだよなぁ……。
メシは質より量だし、酒も安いのばっかだし……。
特筆するもんなんて何にもなかったような――。
「…………あぁ、ロウソクとかどうだ?」
「へ?」
「作戦会議のときに使ったロウソクだ。火も弾けないし、かなり明るかった」
……いや、ロス隊長?
それ、女の子に勧めるもんじゃないですよ?
「お? 聞くからに綺麗そうでんな?」
「かつての賢人はロウソク職人を『光の細工師』などと謳っていたそうだが、成
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