最近、反魔物領を攻め入った時にエンジェルを捕まえた。
教団の兵士を捕まえて彼女たちが彼らを夫として矯正するのは珍しくないけども、未だ純白の羽を称えた天使が親魔物領内にいるというのは、何だか変な気分だった。
「………………」
ぶすっとふて腐れたように、鉄格子の向こう側で彼女はごろりと転がっている。
汚れ一つないワンピースから健康的なおみ足を投げ出し、こちらを見ようともしない。
まぁ、主神に心酔するエンジェルが、進んで俺のような親魔物派に話しかけるとは思わないが。
「………………」
おかげさまで暇で暇で仕方がない。
いや、しきりに脱走の機会を窺われるよりかは神経を使わなくていいけども。
しかしながら手持ちの本をすでに三周してしまった身としては、持て余さずにはいられない。
「なーお嬢ちゃーん」
「……………………」
当然、返事はない。
構うことはない、とりあえず話しかける。
「自分の処遇とか聞いたりしないの?」
「……………………」
「ここに捕まった人らってそういうの大概聞いてくるんだけど」
「……………………」
「……………………おーい、うんとかすんとか言ってくれー」
「……………………」
……ダメだこりゃ。
聞く耳持たないと言わんばかりに頑なに背を向ける彼女に、思わず肩をすくめる。
元より期待はしてなかったけどこうも無反応だと逆に清々しいな!
カツ……カツ……
と、ヒールの響く音が薄暗い牢獄に響く。
もちろん俺の足音ではない。ちょうど入り口から、ぬっと白い影が入ってきた。
「あ、おっす姉御」
「誰が姉御よ誰が」
呆れたように腕を組む絶世の美人、この親魔物領の領主であるリリムだ。
名前は忘れた!
「あの娘は相変わらず?」
「えぇまぁ、相変わらずッスよ」
相変わらず、頑なに魔物を拒んでいる。
こんな所に閉じこめられてなおもこれとなると、頑固を通りこして尊敬すら覚える。
だが姉御はそうでもないらしく、困ったようにこっそりと耳打ちする。
「あなた、元勇者でしょ? なんとか説得できないの?」
そのとき、エンジェルの彼女の身体がピクリと震えたような気がした。
気のせいだ、そう言い聞かせて姉御に応える。
「あの頑固さだと、そう名乗ったら尚のこと閉じこもるッスよ、あの娘」
「難しーところねー……というか面倒くさいわ」
ぶっちゃけすぎだ姉御。
と、姉御がパッと身を翻して鉄格子の前に立つ。
そのまま、無気力に寝転がるエンジェルに話しかけた。
「ねー、そこの貴方ー」
「………………………」
「構えー構えー、構わなければ襲うぞー」
「………………………」
「…………シルフ直伝ッ、そよ風めくり術!」
「きゃっ!?」
突如として、牢獄内にヒュゥッとと空気が流れはじめる。
ちなみに窓はない。姉御が拳を振るいその勢いで風が起きているのだ。
なんて無駄に洗練された無駄のない無駄な動きだろうか。
ところでエンジェルのスカートがめくれかかって目のやり場に困るんですがそれは……?
「HA-HA-HA-! 構わなければめくり続けるぞー! ほーれほれほれほれー!」
「ちょ、止め……! そこのキミ見てないで止めなさいよ!?」
「いや俺は何も見てないから構って差し上げれば止めるんじゃないですかね」
同情するけど巻き込まれるのは勘弁である。
この人の相手は見れば大体わかるけど、かなり疲れるのだ。
「ほらほら構えーさもなくば奥義【服だけカマイタチ】の餌食となるぞーさー構えー!」
「分かった! 分かったからその謎の風止めて!」
さすがのエンジェルも堪らずに起きあがる。……ちなみに、白だった。
……あと、ちょっとだけ【服だけカマイタチ】とやらが見たかったのは内緒だ。
いやーどんな技だったんだろうなー【服だけカマイタチ】。
「よしっ、じゃー早速お話に付き合ってもらおー!」
「…………なんでボクがこんな屈辱を」
天災か何かだと思って諦めたまえ。
「それじゃーまずスリーサイズ教えて」
「ぶふっ!?」
他人事のように距離を見ていたら思わぬ暴投が飛んできた。
むせ返る俺を冷めた目で見るエンジェルと、狙っていたかのように爆笑する姉御。
俺が一体何をした。
「……言っとくけど、教えるわけないから」
「げほっ、ごほ……わ、分かってるし。ちょっと不意打ちだっただけだし……」
「あっはっはっはっはっは!! あっはっはっは、おま、リアクション……ぷーくすくすー!」
この姉御、確信犯である。
というか笑いすぎだろ……。
「あの……姉御、一応、野郎がいることも考慮したうえで健全な尋問を心がけてくれません?」
「ひー! ひー! お、お腹いたい……! うん、分かった……っぷひー!」
ぷひーて何だ。さすがにイラッときたぞ……。
そのまま、時どき思い
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