第三話 親友と儀式 中篇

俺は彼女ラージマウスと共に、森の中を走っていた。
この先に親友が連れ去られたワーウルフ達の住処があるという。
彼女の話によればこうだ。

彼女と親友はこの近くで遊んでいたところをワーウルフに襲われた。
彼女が必死に抵抗するも敵わず親友は連れ去られてしまう。
一度住処へ乗り込んだものの彼女達の守りは厳重でとても入り込めたものではなく救出を断念した。
そして少しでも対抗するために、人間から武器を奪い、助け出そうとした。
お金を欲しがったのはそれで街へ行って武器を買おうとした為だそうだ。
それにしても…。

「まったく無茶な考えをする、人間の武器を使ったからって勝てるわけ無いだろ?それに街に行った所で魔物に武器を渡すようなやつがいると思うか?」

この近くには魔物を悪とする考えが大きく広まっており、討伐まではしないものの魔物を嫌うものが多く、店はおろか街にすら入れない。
横で一緒に走る彼女が悔しそうに言う。

「分かってたよ、そんなこと。…でもどうしても親友を助けたかったんだ!」
「人間は嫌いじゃなかったのか?」
「人間は嫌いさ、でも親友は違う。親友は私を見ても嫌な顔をせず好きだって言ってくれたんだ。」
「お前もその親友の事が好きなのか?」
「ああ、大好きだ、彼のためなら死んだって構わない。」


彼女は真剣な顔で親友の事を語った。
それを聞いた俺は少しばかり彼に興味を持った。
俺以外に彼女達を好きになれる人間がいたとは…。
そう思うと人間の中にも同じ思想のものは少なくないのかもしれない。
そして彼女自身も人間は嫌いだが気に入った者に好意を抱いている。
これこそが、俺の理想とした形。
人と魔物が手を取り合い、共に生きていく。
そのためにもまず、彼女の親友を取り戻さなくてはならない。

「ま、そのせいで群れからも放されちゃったんだけどね。人間に好意を持ってるってやっぱり変なのかな?」

俺が黙っていることを誤解したのか彼女は少し自嘲気味に言った。

「いいや?俺はとても素晴らしい事だと思うぜ?」

そういうと彼女は「そうかな?」と頬を赤らめて照れながら言った。
こういうときの彼女達は無性にかわいいと感じてしまう。
すこし親友が羨ましくなった。



「ここだ、ここがやつらの住処だよ。」
「住処?ここはどうみても…。」

俺は彼女に案内され彼女達ワーウルフの住処へとやってきた。
だがそこは住処や巣とは桁違いに大きくまるで、

「こりゃどう見ても集落だぞ…。」

周りには藁や木で作られた小屋が建ち、鉄やレンガが使われて無い分、少し古めかしいが人間が住んでいてもおかしくないほどの見事な集落だった。
その中央には大きな家が建っており推測からして、そこにはここの長となる者がいるのだろう。

「で、少年はどこにいる?」
「多分、あの大きな家の下、あそこに縛られてると思う。」
「あそこか、厄介だな。」

俺達は近くの茂みに隠れながら親友がいるであろう長の家の下を見た。
あまりよく見えないが見張りらしき者が立っているのが辛うじて分かった。

「さて、助けに行く前にいくつか確認しておくぞ?」

俺はなるべく小さな声で彼女に話した。

「まず俺があそこに忍び込んで親友を助ける、その後隙を見てお前が飛び出し親友を抱えて安全なところまで逃げる。簡単に言ってるが実際はシビアだ。心してかかれ?」
「わかってる、でもその後あんたはどうするの?」
「俺はここでやることがある、心配するな。最初に会った所で待っていてくれ。」

俺は彼女の不安そうな顔に見送られながら、辺りに誰もいないことを確認すると茂みからそっと出て小屋の影に隠れた。
…ふと思い出したかのように振り返る。

「忘れるとこだった、あんたの名前とその親友の名前は?」

こんな重要な時にそんな事言える俺は暢気なのかね。
と自分で自嘲しながら彼女に聞く。
彼女も同じ事を思ったのか少し苦笑しながら俺に伝えた。

「私はラズ、親友はロイスだよ。」
「ラズとロイス、いい名前だ。…必ず助け出す。」

俺はそのまま集落の中心へと入っていった。

建物の影を伝いながら俺は曲線を描くように前進していく。
この集落はどうやら月が欠けた様な形をしているようだ。
外周を柵で囲み、出口は一箇所だけ。そして中心に彼女の親友ロイスがいる。
ロイスを連れてラズの所まで戻り、追っ手を振り切りながら逃げるのはかなり難しい。やはり一番はロイスに出口の方向に真っ直ぐ突っ切らせるしかない。
その間俺は孤立した状態になってしまうが、まあ何とかなるだろう。
次の小屋にへと移動しようとしたときだった。

「……なったらあの男を食べれるの?」

移動している途中で小屋の中から声が聞こえた。
俺は気づかれないようにして聞く耳を立てた。

「族長様が帰ってくる
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